あじゃみんのブログ

美味しいものや、経営する雑貨店のこと、女性の心身の健康について、その他時事ネタなど好き勝手に書いているブログです。

暗闇からの声 ~こまりんシリーズ最新作~

寒くなってきましたねぇ・・・。

寒くなってくると、やっぱり聞きたいのは怪談ですよね・・・えっ?そんな訳ないだろうって?

・・・そうでした。

怪談は夏の風物詩。
普通は、暑い夏にスイカでも齧りながら聞いて楽しむものです。

こまりんさんからは、新ネタをずいぶん前にいただいていたのですが、私が怠慢だったのと、ショップのことで忙しくて、なかなかUPできる状態にできなかったので、秋の夜長のお楽しみってことになりました。

あと2件ありますが、そのうちまた掲載できると信じています(って、他人事?)。

さて、では、始めましょう。

仕事で福岡に出かけました。

その現場は、ちょっとした山奥にあり、現場事務所に宿舎が併設されているため、打ち合わせの時間が伸びたこともあって、その日は泊まることになりました。
こういうことはよくあることなので、宿泊の準備はしてあったのですが、その場所に到着した時から、なんとなく嫌な感じがしていたのです。
とはいえ、仕事のこともあり、なるべく気にしないようにしていました。

打ち合わせもひと段落した休憩時間に、その現場の方がお茶を飲みながら話しかけてきました。

「いやぁ~、お疲れさまでした。こまりんさん、いきなりですけど、お化けって興味ありますか?」

突然こんなことを言うので、この人私が見えるって知ってたっけ?なんて焦りました。

「興味は・・・・はぁ」

なんと言っていいか分からず戸惑っていると、

「いや、いきなりこんなこと聞かれてもねぇって感じですよね。ハハハ#いや、実はね、ここの先って、出るらしいんですよ」

「えっ?出る?」

「ええ、それで今晩みんなで肝試ししようなんて話になってね。泊まって行かれるなら、ご一緒にどうですか?」

「はぁ・・・」

やっぱりなぁ~という感じでしたが、雰囲気を壊してもいけないので、「肝試しですか、いいですねー、ぜひぜひ!」と明るく答えました。
最初に嫌な感じはしましたが、そこまで周囲の雰囲気も悪くないようでしたし、ひとりで行くわけじゃないしと、軽く考えていたのです。
聞けば、その事務所と現場に関わっている人たちで、総勢50名の大所帯の肝試し大会でした。

肝試しのプランはこうです。

事務所の先にある廃墟に行って、数人ずつ中を歩いて回る・・・という至ってシンプルなもの。
廃墟は、近くのトンネルを抜けて、だいたい1キロくらい歩いた場所にありました。
今いる現場事務所よりも、かなり現場に近い場所で、当初はその廃墟を綺麗にして、そこに現場事務所を置く予定にしていたらしいのですが、地元の人が絶対にダメだと反対したそうです。

理由は、分かりません。

廃墟は、トンネルを抜けて歩いて行って、その道の行き止まりに立っていたし、現場事務所として必要な広さは十分にありましたし、大型車両なども停めるところがあって、最適な場所だったのですが・・・。

その廃墟は、元は病院でした。

なぜそんな寂しいところに建てたのかは不明・・・というくらい、山の中ですし、周辺は普段ほとんど人通りがありません。

集合は、夜10時。
事務所の前に集合でした。

肝試しといえば夏の風物詩ですから、気分も高揚しますよね。
集まった人たちみんな、それぞれうちわや懐中電灯を持ったりして、ワイワイと楽しそうにしていました。

抽選で、5人ずつ10班に分かれたのですが、私の班は3番目に出発することに決まりました。
トンネルまではぞろぞろと全員で歩いて行き、そこから1班ずつ先に進みます。

その班がトンネルに帰ってきたら、交代で次の班が出発なので、廃墟には常に1つの班が入ることになります。
帰ってきた1班は、楽しそうにおしゃべりして、「怖かった~」という声も明るい感じでした。

そして2班目が出発。

「泣いて帰ってくるなよー」

なんて、声が掛かったりして、結構盛り上がっていました。
2班は、20分くらいして、戻ってきました。

「ただいま~!無事生還しましたぁ~」

「なんだ~!さすが廃墟!地元では有名なんだな~!大勢、肝試ししてるよ~!」

「怖いらしくてさ~。死ぬ~!とか、くっそ~!殺してやる!とか叫んでたよ」

「最近の若い奴らは元気だね~!」

2班は、比較的年配の方が多かったので、若者が肝試しに来ているのかと思っていたようです。

大声で笑いながら聞いたことなどを報告してくれました。

「よーし、今度はうちの番!」

3番目に出発するのは、私たちの班です。
1班も2班も楽しそうに帰ってきたからか、ちっとも怖がっている風もなく、リーダーの掛け声をきっかけに歩き始めました。

「俺たち以外にこんなところまで肝試しに来るなんて、ここって有名なんだなぁ」

「確かに。でも、それじゃぁ、あんまり怖くないよなぁ」

「そうね、そんなにたくさん人がいたら、雰囲気でないかも(笑)」

などと、口々に言っては、笑いながら歩いていきました。

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

のんきな人たち。
一緒に歩きながら、私はちょっと呆れていたのです。

だって、気づいてしまったから。

廃墟にいる大勢の人たち・・・いったい、どこから入ったんだろう?
この道しか廃墟に行く道はないのに、車は一台も停まっていない。

まさか、こんなところまで徒歩で来る人はいないだろうし。

そこは、結構険しい山道だったんです。
そんなところを夜中に大勢で登山できるわけないじゃないですか。

さすがに不安になって、気を付けるように班の人に言ってみることにしました。

「あの・・・なるべく気を引き締めて行った方がいいかも知れないですよ」

ちょっと暗いトーンだったからか、班の人は笑って

「あら、こまりんさん、怖くなった?」

と聞いてきました。

私は真面目な顔をして、

「うん。さっきみんなが言っていた大勢の人たちって、どこから入ったの?」

と答えました。

「えっ?」

「駐車場に車もなかったし、バイクとかも置いてなかったよね?」

「・・・・・・・・・・・・」

「もし怖いなら、キャーとか叫ぶなら分かるけど、死ぬ!とか殺してやるとか叫ぶ?肝試しで」

「そう言われてみれば・・・」

班のみんなの顔から、笑顔が消えました。

「たぶん、本物だよ」

「えっ?」

思わず立ち止まります。

「私たち5人以外は、全部本物だと思った方がいい」

「そっ、そうなんだ・・・」

「気をつけなくちゃ」

なんだか、楽しい雰囲気に水を差してしまったかなと思いましたが、本当に出るのであれば、しっかりと気を引き締めないと恐ろしいことが起こるかも知れません。

口数も少なく歩いていると、しばらくして廃墟に到着しました。

ボロボロの入口に着いて中を覗いてみると、聞いていたのとは違って、シン・・・と静まり返っていました。
叫んでいる声など、何も聞こえません。

「なんか色々落ちてるから、足下にも気を付けて入りましょう」

そう注意して、みんなで固まって中に入りました。

外は綺麗な月が出ているので道を歩く時は周囲もよく見えましたが、中に入るとその光も途切れ、懐中電灯の光だけが頼りです。

「・・・・・・・・」

映像や写真でよく見る、廃墟の雰囲気そのままで、何も出なくても結構怖いところだと思います。
出てくる時の勢いはどこへやら、みんな一歩の足取りが重くなっていました。

「・・・・ねぇ、あれ、何かしら」

私以外にもう1人メンバーだった女性が遠く、先の方を指さして言いました。
ちょっと遠くて懐中電灯の光も届かないのですが、廊下らしき通路の先に人影が見えました。

全員に緊張が走ったのが分かりました。

『こっち~こっち~!いるよ~!!』

じっと目を凝らしていたら、その人影からなのか、前方から呼ぶ声が聞こえてきました。
大きな叫び声といった方が正確かも知れません。

一瞬、どうしようか・・・という空気が流れましたが、これは肝試しですから、気合いを入れて声の方に進むことにしました。
そうはいっても怖いのか、なんだかみんなが団子状態でした。

「足下・・・気を付けて」

とにかくゆっくりと声のする方へ歩いて行くと、その廃墟の廊下は、先の方が崩れていて、崖になっていたのです。
声のする方へそのまま進んでいたら、下まで落ちていたでしょう。
ただし、暗くてどのくらいの深さかは見えませんでしたけど・・・。

「これ以上は無理だから帰ろう。帰った方がいいよ。」

そういう私に「そうだな」と全員が同意し、元来た道を引き返すことにして、また歩き始めたのですが、横にある真っ暗な部屋から、「まだ見て行こうよーーーーおおおおおおーーーーー」と声が響いてきたのです。
全員が聞こえたらしく、立ち止まってしまいました。

「まだ帰るなんて早いよーーーー、こっちも見て行こうよぉおおおおお」

「いいえ!帰ります!」

闇からの声を遮るように叫んで、5人で固まりながら廃墟を出ました。
みんな、声を発することもせず、誰も振り返ろうとしませんでした。

足早に戻ると、待っている人たちに危険であることを告げ、肝試しを中止することにしたのです。

みんながあれだけはっきりと声や姿を確認できたのですから、あの廃墟には相当強い霊がいるのだと思います。
今思い出しても、背筋がぞっとする場所でした。