皆様、こまりんさんの最新作です。
いえ、作って言っても実話です(笑)
毎度のことながら、なんでこんなことばっかり起きるんでしょうねぇ。
本当にお話会とかして欲しい。
というか、そういうところに連れて行って欲しいです。
今日は、あるお部屋にまつわるお話です。
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私の事務所の仕事は、仕事を終えると現場事務所に説明に行き、納品というパターンがほとんどです。
このため、打ち合わせなどは先方の現場事務所まで出向いて行くことが多いのです。
ある日、ある現場での打ち合わせが入っていたのですが、別の現場で急遽打ち合わせをしなくてはならなくなり、今まで2人だけでは打ち合わせに行ったことのない事務所の男性スタッフ2名に当初私が行く予定だった打ち合わせを代わってもらうことになりました。
「コミュ力なくても、説明だけだから頑張って!!」
「ま~自信はないですけど、行ってみます。」
そんな会話を交わしながら、午後は別行動となりました。
ふたりが向かったのは、都内の新築現場でした。
最近、現場事務所は元請のゼネコン社員が社員が所長や副所長を務めていますが、一般所員のほとんどは派遣の男性が多く、ここも例外ではありません。
そのため、人の入れ替わりもあり、担当者は社員ですが、毎回同じ顔ぶれということもないのが普通です。
ふたりは以前にも何度かは現場に行っていたので、その時に知り合った東野太郎(仮名)という派遣の男性と顔見知りになっていました。
穏やかな優しい感じの男性で、みんなから「太郎ちゃん」と呼ばれていました。
地方から出てきて、埼玉で一人暮らしをしているという太郎ちゃんは、とても面倒見の良い人で、うちのスタッフを案内してくれたり、色々と気を使ってくれているようでした。
また、実家にも仕送りをしているようで、「派遣の方が大きい現場を経験できるからさ~」とポジティブな明るい人でした。
うちのスタッフとは同じくらいの歳でしたが、ずっとしっかりしています。
別の場所での打ち合わせを終え、事務所に戻ろうとしていた時のことです。
スタッフの一人から電話が掛かってきました。
「お疲れさま。どう?うまくいった?」
「こっちは大丈夫っす。先輩、今終わって帰るところなんですけどー」
大丈夫と言っているのに、なんだか語尾が歯切れが悪いので、「どうしたの?」と聞いてみました。
「実は、太郎くんが変なんですよ」
「・・・変?変て何が?」
そう聞き返した私の耳に、なぜか鼻歌が聞こえてきたのです。
どうやら子供の声らしいちょっと甲高い、可愛い声でした。
現場事務所は仕事中のはずで、そんなところに子連れで誰かがきているというのは通常ありえないので、ちょっと驚きました。
「ちょっと、どこから電話してるの?この鼻歌は何?」
そう聞くと、「まだ事務所っすよぉ。だから変だって言ってるじゃないですか」
スタッフのひとりは、ちょっといらだったように言いました。
「だって、鼻歌みたいなのが聞こえてるじゃないの。子供でしょこの声は・・・・」
まけじと言い返すと、「子供なんていませんよ!いるわけないっしょ!マジです!!」
と、叫ぶように返してきました。
「・・・・・ねぇ、じゃあ太郎ちゃんに代わってくれない?」
そういうと、「わかりました!」と言って、「太郎くん、ちょっと出てくれる?」と電話の向こうの太郎ちゃんに声を掛けました。
「もしもし・・・・」
太郎ちゃんが電話には出たのですが、その時はその鼻歌が子供の声からなんだか野太い男の声に変わって、太郎ちゃんの声がよく聞き取れないほどの大きさになっていました。
「・・・なっ、なにこれ?」
どうも、その男が歌っている歌は、上を向いて歩こうに似ていました。
鼻歌なので、はっきりと歌詞は歌っていないのですが、メロディーは子供の頃に聞いたその歌と同じようでした。
「どうも、こまりんさん、お世話になっております」
鼻歌など聞こえていないのか、太郎ちゃんは電話の向こうでいつもの調子であいさつをしてきました。
その時、私の頭の中には、ちょっとした光景が浮かんできたのです。
「太郎ちゃん、最近引っ越しした?住むところ変えてない?」
そう聞くと、えっ?という声の後で、「そうなんですよー、よくわかりましたね。日曜日に引っ越したんですけど、部屋の割に家賃がすごく安くて、快適なところですよー」と明るく答えました。
「・・・・それか・・・」
明るい太郎ちゃんの声を聞いた私でしたが、ちょっと暗い気持ちになっていました。
後日、請求書を持参して、もう一度その事務所を訪れました。
太郎ちゃんもいましたが、元気ではあるものの、見るからにゲッソリしている様子でした。
「なんか疲れているみたいだけど、大丈夫?まぁ、ここの仕事は大変だから・・・」
そういう私に太郎ちゃんは「いやぁ~、現場はうまくいってますけど、夜とか眠れないんですよね」と、クマを作った不健康そうな顔をして言いました。
「・・・・・・・夜」
その時、私の目には太郎ちゃんの肩の向こうに見えていたのです。
「ねぇ太郎ちゃん、結構小柄な女性と小さい男の子・・・一緒に出るの?姿見える?」
そう聞くと、びっくりした顔で「えっ?!・・・実は、その通りです。なんで・・・」太郎ちゃんが答えました。
不動産屋から勧められたその物件は、
「寂しい一人暮らしでも、この部屋は寂しさを感じませんよ~。霊感ないならまったく問題ナシですよ。両隣の家賃が8.6万円だけど、この部屋だけは2.2万円ですから~経済的ですよね~こういったお得な事故物件って結構人気なんですよ~」
などと言われ、一応告知はされていたので、貸したことは法的に問題はないようです。
しかし、こんな言葉に釣られて入居する方もする方ですけど。
「たぶん、49日が終わらないうちに入居したから問題が起こっていると思うし、そもそも家具とかまだ置いてあるでしょ?」
そう聞いた私に、太郎ちゃんは目をテンにして「いやぁ~、そうなんですよ。処分するのもお金がかかるからって、そのまま置いてっていいって言っちゃったんですよね。まずかったですかねぇ」と答えました。
『それはまずいでしょ!』
心では叫びましたが、今口に出してもどうしようもないので、呆れた顔は隠せませんでしたが、そのまま黙っていました。
『しかし、気味悪くないのかしら。見えない人ってそんなもんなのかな』
毎回、こういう問題にぶつかるたびにそんな風に思ってしまいます。
それから色々と聞いてみたのですが、警察が現場検証した後の状態で引っ越してきたため、家具や家電のほかに食器やタオル、カーペットなどもそのままで、カーテンや子供が描いた絵なども壁にはそのまま残されていたそうです。
玄関を入ってすぐ隣の寝室だけはすべて綺麗にしてあったようですが、この部屋が現場のようだとのことでした。
管理人に聞いたところ、「無理心中」で発見が遅れたようだったとの話で、そこまで凄惨な現場ではなかったようです。
私的には、発見が遅れれば十分に「凄惨」な現場だと思いますけどね。
-事故物件
話には聞きますが、そんなにすごいもの?と興味津々の3人は、その夜太郎ちゃんの自宅まで一緒に行って、現場を見せてもらうことにしました。
場所は、埼玉県とだけ言っておきます。
駅から徒歩5分という立地ですが、駅前のパチンコ街と怪しい客引きを除けば、静かな住宅街でした。
太郎ちゃんのマンションは、ベージュが基調となった落ち着いた感じのマンションでした。
『あら・・・ここ、結構飛び降りた人いるのね』
建物から見えてきたのは、黒い影が上から次々に落ちてくるイメージでした。
太郎ちゃんの部屋は、男の一人暮らしには見えない内装(まぁ、これは当たり前)で、自己物件にはとても見えません。
しかし、リビングに入った時、目の前のサッシに私たち3人と太郎ちゃん、そしてその他2人がくっきりと写り込んでいるのが見えました。
あの鼻歌の子供・・・小さい男の子と小柄な感じの母親でした。
後からひとりになる太郎ちゃんのことを考え、いくら見ていると言っても、今ここにいる・・・ということは言わないことにして、席に着きました。
リビングで話をしていても、寝室の扉が勝手にキーーーーーーっと音を立てて開いたりしていました。
もちろん、風などはありません。
また、リビング隣の和室からは、物が落下する音が・・・。
しかし、実際には何も落ちたりしていません。
しまいには、小さな子供が走り回るようなドッドッドッドッドッという足音まで聞こえてきました。
その音は、何度も何度も私たちの周りを駆け回っていました。
いくら安いといっても、よくもこんな部屋に住めるなぁ~と感心したほどです。
太郎ちゃんが取っておいた不動産屋のチラシというか案内には、『寂しがり屋のあなたにぴったり!1人で住んでいる気がしない!いつも誰かと一緒!もう寂しくな~い!』といううたい文句が書いてあり、それを見て3人で爆笑してしまいました。
「・・・まっ、確かにね」
笑い過ぎて涙が出てしまって、思わず突っ込んでしまいました。
同行のスタッフ2名も、「確かに1人暮らしじゃないっすね」「寂しくないか?」などと言っていました。
しかし、実際に使っていたというリビングにあった椅子に座ると、以前の持ち主の気持ちが伝わってきました。
『ずっと待っているのに・・・どうして来てくれないの?・・・・明日なら来てくれるかも・・・・来週なら・・・』そんな気持ちが読み取れました。
いったい、誰を待っているのでしょうか・・・。
とはいえ、実際、まったく気にしない人であれば、「駅近、3LDK68㎡、家賃2.2万円」ならお得かもしれませんね!
寂しがり屋のあなた・・・1人になりたくてもなれないこんな物件、ぜひ、いかがでしょうか?