あじゃみんのブログ

美味しいものや、経営する雑貨店のこと、女性の心身の健康について、その他時事ネタなど好き勝手に書いているブログです。

病院にいればいるほど、元気がなくなるのは何故?

検査用の血液を取ったりした以外は、2日間ゆっくりと休んだ駒子は、3日目に部屋を移ることになった。

だだっ広い4人部屋で部屋代は半額になるといわれたのだが、なぜかその部屋は空っぽで、蓬莱さん専用特別室ねと看護師に笑われた。

どこでも好きなベッドを使ってよいといわれ、なるべく明るい場所にしようと窓際の入口からは向かって左側のベッドを使うことにした。

 

「・・・・とはいえ、なんだか不気味」

 

ガラ~ンとした広い部屋にぽつんと一人でいるとなんだか気味が悪い。

そこで、12時間分のTVが見られるというプリペイド式のカードを廊下の自動販売機で購入して使ってみたのだが、その部屋にある4つのTVはすべて利用できず、どれもザーっという砂嵐状態でせっかくのカードも無駄になってしまった。

 

「しょうがない。ラブちゃんにパソコン持ってきてもらうか」

 

とても何の音も映像もない部屋にはいられないと着替えを持ってくる予定になっていた助手の愛子に連絡し、ミニパソコンとDVDを数枚持ってきてもらうことにした。

 

「先生、なんだか随分贅沢な感じですねぇ」

 

霊感などまったくない愛子には、この状況が贅沢に映るらしい。

 

「そうだけど、夜になったら広すぎるこの部屋が憎くなるかも知れないわ」

 

真面目に言った駒子だったが、愛子は軽く笑っただけで、真剣に受け取ってはくれなかった。

4人部屋とはいっても実質は1人なので、イヤホンもすることなく小さな音にして、DVDをつけっぱなしにして、なんとか怖さを和らげていた。

 

夜---

 

この部屋に移動して最初の夜だ。
ひとりで退屈だろうと担当の看護師が駒子の部屋でしばらくお喋りをしてくれた。

 

「じゃあ、ゆっくり眠ってくださいね」

 

看護師はそう言うと、ベッドの周りのカーテンを引いて出て行った。

 

「お休みなさい」

 

看護師を見送ってから横になった駒子。


カーテンを引いたことで、視界は狭くなったが、囲まれていることで却って落ち着くことが出来た。

しばらくして消灯時間になったので、部屋の電気はすべて消し、ベッド脇の蛍光灯だけ残しておいた。

その頃は、特に怖さなどはなくなっていたのだが、DVDを見るのに暗闇では目に悪いと思ってのことだった。

小さな音で映像を流し続けていたら、そのうちウトウトと眠くなり、まぶたが重くなった。

 

ガサガサ。
なんだかカーテンを動かすような音が聞こえてきた。

 

「・・・・えっ?」

 

やっと眠くなったのに・・・ちょっとイラっとしたが、しかたなく音のした方に顔を向けると、カーテンの隙間から老婆の姿がぼんやりと見えてきた。

 

『誰?』

 

その老婆は、カーテンを両手でつかみ、こちらを見ていた。

ドアが開いた様子も物音も何もしなかったのにおかしいなぁ~と思って見ていると、老婆が駒子に向かって「そこは私の場所!どきなさい!私の場所!私の場所!」と繰り返し繰り返し低い声で言った。

 

『なんで?・・・ボケちゃってるのかしら?』

 

仕方なしに少し体を起こした駒子は、カーテンの下から出ているはずの老婆の足がないことに気づいた。

 

『出たかぁ~』

 

病院という場所柄、風邪などで診察を受けに来るような時も亡くなった人が見えることがあるが、ここは随分と力が強いようだ。

 

「あなたはもう死んだの!ここにいちゃいけないの!!」

 

駒子は力を振り絞って老婆に何度も繰り返し言った。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

静かになった老婆を見て、『やれやれ、納得したか』思った次の瞬間、カーテンの向こうにいた老婆が駒子のベッド脇に姿を現した。

 

「私の場所~!」

 

白髪だらけで紫色の唇をした、浴衣を着た老婆だった。

 

「だからもう死んでるんだってば~!!」

 

枕を投げつけると、すーっと老婆の姿が消えていった。

 

「・・・・もう、何なのよぉ~」

 

いきなりそんな状態だったため、結局その夜は一睡もできずにいた駒子だった。

 

夜が明け、小鳥のさえずりも聞こえてきた頃、なんとなくウトウトし始めた駒子だったが、検査の時間が午前中なので本格的に寝るわけにいかず、「絶対家に帰った方が体調良くなると思うなぁ~」天井を眺めながら、朦朧とした意識のまま、そんなことを考えていた。

 

その日の血液検査の結果は、案の定最悪だった。
医師からは、これではしばらく入院ですねと言われ、うんざりした駒子だったが、現実的に体調を崩しているため、自分の体質のことなどを話したところで納得してもらえるのは無理だと諦めて、医師の指示に従うことにした。

夕方、検査結果を聞いてから、病室に戻る途中、ナースステーションの前を通った時のことだった。

 

『あぁ~、しんどぉ~・・・ん?』

 

見ると、ナースステーションで看護師たちの前に挨拶に来たと思われる家族が来ていて、駒子が目を向けると「では、失礼します」という声が聞こえてきて、頭を下げながら出口の方に向かって歩き始めたのだが、その後ろを昨夜の老婆が着いて出て行くのが見えた。

 

「ちゃんと迎えにきてくれたじゃないの」

 

駒子がそう言うと、老婆は振り返って穏やかに会釈をして去って行った。

 

「良かったねぇ」

 

嬉しそうな顔で去って行く老婆を見て、ホッとした駒子だった。

 

夜---。

 

昨夜の老婆はもう帰ったし、今夜は熟睡しないとまた検査に支障をきたすと早めに消灯して布団をかぶって寝る体勢を取った駒子は、特に不気味な雰囲気も感じなかったので、今夜は眠れそうだとDVDを小さな音でかけながら眠くなるのを待っていた。

少し眠った後だろうか、目が覚めて時計を見ると0時過ぎだった。

 

『まだ0時か』

 

すぐに目を閉じて、また眠りに落ちるのを待とうとした駒子だったが、ちょうど看護師の見回りの時間だったらしく、カラカラ~という音がして扉が開き、懐中電灯で部屋を少し照らすと、すぐに戸を閉める音がした。

駒子は特に気にもせず、そのまま寝ていたが、数分後にまたカラカラ~という音がして、懐中電灯の光が行ったり来たりした。

 

『なんで?』

 

不思議に思った駒子だったが、眠さが強かったために起き上がることもせず、何か見過ごしたのかと目はつぶったままでやり過ごした。

すぐにまたドアの閉まる音がして、パタパタと去って行く足音がした。

なんだったんだろう・・・・思ってはいても、眠さが勝ってそのままの体勢でいたのだが、また数分後に同じようにドアが開き、懐中電灯の光が泳ぎ、また数分後に・・・と何度も同じことが繰り返され、いくらなんでも何かあったのだろうかと起き上がって「いったい何ですか?何度も何度もまったく!」そう少し怒りを含んだ声で言うと、カーテンを開けて看護師が顔を出した。

 

「どうしたの?」

 

心配そうに言う看護師に今まで何度もドアが開いて懐中電灯の光が当てられたことを説明すると、看護師はちょっとため息をつくと、

 

「ごめんなさい。今の私だけが本物だから。病院だからねぇ、仕方ないのよ」

 

明るく言うと、部屋を出て行ったのだが、見送る駒子の目には足音はすれどもその看護師の足は、やはり見えないのだった。

 

はっきりと見えていた看護師だったが、着ていた制服のデザインが昼間見た病院の看護師たちのものと微妙に違っていたのに気づいたため、思わず足の有無を確認したのだ。

 

「あいつもかぁ~、勘弁して欲しいなぁ~」

 

その日は、もう戻ってくることはなかったが、駒子はやはり眠れない夜を過ごしたのだった。

 

「こんなんじゃ、良くなるわけないじゃない!!」

 

駒子の予想通り、翌日の検査の結果は思わしくなく、「薬が効いてないんですかねぇ。おかしいなぁ」医師は首を傾げていぶかしがったが、とりあえず薬を変えましょうと、新しい薬について駒子に説明した。

 

『これじゃあ、薬がどうとかそんなことより、体がもたないわ』

 

駒子は、愛子に電話をすると、ある場所に行って、いつも身につけている大きな水晶を買ってきてもらうようにして、塩とその水晶を持って出来るだけ早く病院に来るよう頼んだ。

夕方頃に頼んだ水晶と塩を持った愛子が病院を訪れた。

 

「先生、いつも持ってるやつはどうしたんですか?」

 

駒子がその水晶をいつも持ち歩いているのを知っている愛子が真新しい水晶を紫の袋から出しながら言った。

 

「あれねぇ、シンガポールで無くしちゃったのよ」

 

本当は、怪物と対峙した際に投げつけたため割れてしまったのだが、愛子には言わないことにした。

愛子に持ってきた塩をベッドの四隅に盛っておいてくれるよう頼み、愛子も言われるがまま盛り塩をして帰って行った。

 

「これで少しは良くなるわ」

 

その日は、水晶を枕の下に入れて眠ることにした。

 

午前0時。

それはまたやってきた。
パタパタという足音がして、ドアが開くと、懐中電灯の光がまた部屋の中を照らした。

 

『・・・・・きたきた』

 

枕の下に入れていた水晶を取り出すと、ぐっと握り締めた駒子。

 

入ってきた看護師の霊は、駒子の姿が見えないらしく、狂ったように懐中電灯の光を部屋中に当てながら、

 

「患者!患者がいないの~~!!どこに行ったのお~~!私の患者~!!」

 

そう叫び続けたので、駒子はナースコールのボタンを押して、この世に存在する本物の看護師を呼んだ。

慣れているといっても、怖くないわけではない。
半狂乱の看護師の霊に怖くなった駒子は、必死でボタンを押した。

すぐにやってきた看護師が、駒子の担当をしてくれている看護師だったため、駒子は正直にすべてを話した。

 

「最近、この部屋から元気に退院した人がいなかったから、色々あるかもね」

 

職業柄そんな話を聞くこともあるのか、話を聞いた看護師は駒子の話を受け止めた上でそう言った。

 

「なんか、良くなる気がしないんですけど」

 

うんざりした駒子は、看護師にそう言うと、人のいる6人部屋のベッドが空いたら移れるようにするわねと優しく言ってくれた。

そして、結局入院してから8日目にようやくにぎやかな6人部屋に移ることができたのだった。

 

めでたし、めでたし。

・・・・なわけないのは、読者には分かっていると思うのだが、どうだろう。

 

 

※今回、書いている心霊現象は、駒子のモデルであるこまりんさんが実際に体験したものを物語に当てはめて書いています。

霊感なんてなかったとつくづく思う今日この頃です。