あじゃみんのブログ

美味しいものや、経営する雑貨店のこと、女性の心身の健康について、その他時事ネタなど好き勝手に書いているブログです。

閉鎖病棟にて

皆様、お待たせいたしました。

こまりんさんから、新着の話題をいただきましたので、ご紹介します。

こんなん嫌や!って掲載用にリライトしながら思った私でした。

***

私の母は、数年前から病気で入退院を繰り返しているのですが、父が他界して以降は、自宅での介護が続いていました。

コロナ禍で借りていたオフィスを閉鎖し、従業員もリモートで仕事をさせることになり、私自身も実家で介護をしながら仕事をするようになっていました。

数週間前、母の容態が急に悪くなり再入院。

今のご時世、病院への出入りは厳しく制限されており、入院患者への面会などはかなり厳しく管理されていました。

ただ、母が入院してからは、色々な説明(薬の投与やら今後のことなど)を受けることが必要だったため、なんだかんだと主治医に呼び出され、病院に通ったりしていました。

閉鎖病棟

その病院では、コロナ対策なのか手術や入院患者の数も制限しているようで、病棟の一角にテープが貼られていて、そこから先の病室には誰も入れていないようでした。

閉鎖病棟などと呼んでいましたが、別に古くなって使われていない建物・・・ということではなく、単にこの区画は使いませんというだけで、廊下を見ても掃除もされていて綺麗でしたから、別に怖い感じも何もなく、テープの前を通るたびに「ここまだ使ってないんだぁ~」と思ったくらいでした。

その日も、呼び出しがあって病院へ。

1階に受付があり、名前と用件を伝えると、熱を測ってからエレベーターに乗って入院病棟に向かいます。

受付では、事前に名前が登録してある人以外を通さないことになっているようで、その日は着替えを持ってきた患者家族が事前登録をしていなかったことで、中には入れませんと断られていました。着替えを持ってきただけだとちょっと怒った口調が聞こえましたが、結構厳格なので、その人がその後通れたのかどうなのか、特に聞いていないのでわかりません。

エレベーターを降りるとそこにまたドアがあり、インターフォンがあるのでボタンを押して待っていると、その病棟の看護師が対応してくれます。

再度そこでも熱を測り、書類に名前と必要事項を書けば入れるのですが、入るといってもすぐ前にある談話室に入れるだけです。

「先生をお呼びしますので、少々お待ちください」

そう言って看護師が出て行ったので、椅子に座って待つことにしました。

移動した部屋は・・・

それからどれくらいかは忘れてしまったのですが、結構な時間待っても、全然主治医は現れませんでした。

「おかしいなぁ~。忘れられたのかしら」

仕方ないので部屋の外に出て、看護師さんに確認してもらうことにしました。

「こまりんさん、失礼いたしました。別の部屋でお会いするそうですので、お荷物を持っていらしてください」

対応に出てきた看護師がそう言うので、バッグなどを持ってきて、「こちらへどうぞ」という看護師について行きました。

「えっ」

思わず声が出たのは、その看護師が例の閉鎖病棟のテープをくぐって中に入って行ったからです。

「あの、そっちに入って大丈夫なんですか?」

何かの間違いかも知れないと思い、そう聞いたのですが「大丈夫ですよ」と言って、スタスタと歩いて行きました。

テープのある角から5mくらい行った部屋の前で止まったので、「えっ?あそこ?」と思ったのですが、なんだかすごい狭い感じがして、ちょっと嫌な印象があったからです。

「先生はすぐいらっしゃいますので、こちらでお待ちください」

看護師がドアを開けて中を示すと、そこは小さなテーブルが1つと椅子が2脚あるだけの狭い部屋でした。

中に入るとすぐにガラッと音がしてドアが閉まり、その狭い部屋にポツンと残された私は、先生を上座にだよなぁ~と、手前の椅子に腰かけて医師を待つことにしました。

椅子は入ってきたドアに背を向けて置いてあるので、私の背中はドアの方を向いているのです。

電気は点いていましたが、既に夕方になっており、おまけに雨女の本領発揮で雨まで降ってきて、なんだか薄暗い雰囲気が漂ってきました。

綺麗に掃除がしてあっても、病院というのは無機質な感じがして、冷たい雰囲気になんだかちょっと嫌な気分になりました。

後から知ったのですが、その部屋は通常患者に聞かせたくない話をするために用意された部屋だったようです。余命とかそんなことを・・・。

私の場合は、他の打ち合わせ用の部屋が空いていなかったので通されたようでした。

すぐと言っても、さらに待たされて、なんだか落ち着かず、ドアを背にしているので、それも気になって、ついつい振り向いてドアをチラチラ見てしまいました。

訪ねてきた人

ドアには丸いすりガラスのついた部分があり、ガラス越しに廊下を行き交う人の影が見えました。

「先生まだかなぁ・・・・ん?」

そこで気づいたのです。

私がいるのは閉鎖病棟の中にある部屋で、人など歩いているはずのない場所だということを。

「じゃぁ、あの影なに?」

背筋がゾッとしました。

トントン・・・。

「ひっ!」

いきなりノックの音がしたので、ちょっと声が出てしまいました。

『やっと来たか』

主治医がやっと来てくれたかと、大きな声で「どうぞ!」と言ってドアの方を向くと、そっとドアが開いたのですが、母の主治医は若くて元気な先生で、ドアを開けるときも結構勢いがあるんです。

でも、背後で開いたドアは、ほんの数センチで止まりました。

「木下先生~、痛い~~痛い~~です~~~早く何とかしてくださいよお~~~」と、うめきながら話しているような声が聞こえ、びっくりしました。

「あっ、あの、木下先生はいらっしゃいませんよ!お間違えではないですか?」

そう言ってドアの方を見ると、細く開いた隙間からギロリとにらむような眼だけが見えました。

バタン!と音がしてドアが閉まったので、思わず立ち上がってドアを開け、廊下に出ました。

「・・・・・・・・・・・・・」

分かっていたことですが、目の前には無機質な廊下があるだけで、人の姿などどこにもありませんでした。

遠くにあるテープも切れてはいません。

「ふーーーーーー」

思わず大きなため息が漏れました。

『早く来てよ、先生!!』

こんなところにはいたくないと思いながらも、主治医と話に来たのに帰るわけにもいきません。

仕方なく部屋に戻り、また椅子に腰を下ろしました。

「きゃっ!!」

ほんの1~2分廊下に出ていただけなのに、座った椅子はぐっしょりと水に濡れていたのです。

「なにこれ~!!私の汗・・・(;'∀')???」

すぐにティッシュで拭きまくって、なんとか座れるようなりました。

「・・・勘弁してよぉ~!!」

私と病院は、本当に相性が悪い。

「どうもお待たせしてしまって、すみません」

直後に快活な声がして若い主治医が入ってきました。

すごくホッとして、思わず「どうもぉ~」と変な挨拶になってしまいました。

先生が書類などを置いて準備する間に先ほどの話をすることにしました。

「あのぉ、さっき木下先生の患者さんが間違ってこちらに来られましたよ」

そう言う私の顔を先生は変な表情で見つめました。

「木下先生・・・?まぁ、木下先生は確かにうちの外科医でしたけど・・・。ご自身が患者になって残念ながら・・・患者さんはすべて他の先生が引き継いだはずですから、後で確認してみますね」

「そっ、そうなんですかぁ」

そう言った私の顔は、きっとかなりひきつっていたと思います。

よくあることですよ

母の病状や今後の対応について、先生のお話を伺っていたら、あっという間に1時間くらい経っていました。

『なんか疲れたなぁ』

そんなことを思いながら話を聞いていると、背後のドアがトントンとノックされました。

「まだ使用中ですよぉ、何ですか?」

目の前の先生が大きな声でドアの方に声を掛けました。

私は振り返りませんでしたが、空気の流れでドアが少し開いたのがわかりました。

「あの・・・痛いんです。死にたくないんです」

ドアの向こうから小さな女性の声が聞こえてきました。

先生はそのままドアの方を見ていたので、『さすがに今度は生きている人か』と思ったのですが、先生は大声で「あのねぇ、あなたは先週旅立たれたんですよ、天寿をまっというされたんです。苦しかったよね、でも、よく頑張りましたね」と言ったのです。

私は思わず先生の顔をじっと見てしまいました。

先生がそう声を掛けた直後、またドアが閉まるのが分かりました。

「・・・あの、せっ、先生今の・・・」

自分ひとりの時より、誰かがいた方がなんとなく怖さが倍増するような感覚ってわかりますか?

その時は、かなり鳥肌ものでした。

うわずった声でそういう私に、先生はにっこり笑って「あっ、聞こえましたか。ああいう人多いんですよ。ここ病院だから普通だし、よくあることですよ」と言ったのです。

それからまた母の話に戻り、ちょっと前にあったことなどまるで気にしていないようでした。

私は幼い頃からずっと霊に悩まされてきましたが、こんな風に「なんてことないね」なんて思えたことがないので、この医師の心臓の強さをとてもうらやましく思ったのでした。

 

※文章内の名前は仮名です。