いよいよもうちょっとで手術ということで、ピーターくんがスケジュールなどを説明しに来てくれました。
おへその掃除をして手術着に着替え、血栓予防の靴下を履いて手術に臨みます。
終わったら、ナースステーション隣の回復室で1泊し、翌日今いる部屋に帰ってくるとのこと。
「どなたかご家族はいらっしゃいますか?」
そう聞くピーターくんに「いや、別に」と答えました。
とりあえず叔母には連絡してありましたが、千葉の奥地に住む母には出て来られても大変なので内緒です。
「もし、どなたかいらしたら、言ってもらえれば時間外でも大丈夫ですから。手術したばかりだと会いたくなるでしょうしね」
と言われ、「そんなもんかな」とちょっと考えました。
確かに、手術なんてしたことないし、終わったら心細くなるかもしれません。
ピーターくんにおへその掃除をしてもらい、着替えたらあとはもう待つだけです。
急に決まったこともあって、私の順番は3番目か4番目で、ピーターくんによると今の様子だと3時半とか4時頃かなとのこと。
準備が整ってしまうと、もうやることがないので、ただただぼーっとしていました。
とりあえず元彼には予定を送って、時間外でもちょっとなら大丈夫だから会いに来てくれるように頼みました。
すると廊下の方から「えっ?もう」というピーターくんの声が聞こえ、
「あっ、あじゃみんさーん。もう呼ばれちゃいましたよぉ!」
と跳ねるように部屋に入ってきました。
「4時くらいだと思ってたのにびっくりですね!」
「・・・はぁ」
まだ1時半くらいだったので、随分早いなぁ~とは思いながら、やることもなく4時まで待つより良かったとホッとしました。
「いやぁ~、なんか緊張してきちゃいますねー!」
ピーターくんが笑顔でいいます。
「(いや、別に・・・・)・・・ハハハ」
なんであんたが緊張すんだよ?って思いつつも、そうやって私のために言ってくれるピーターくんにちょいと感動。
「頑張りましょう!」
ガッツポーズで言うピーターくん。
麻酔で寝ているだけなのに、なにをどう頑張るのかは不明でしたが「はい」と答えておきました。
「じゃ、行きましょうか!」
「はい」
元気なピーターくんに促され、慣れた302号室とはちょっとの間お別れとなりました。
手術室は1階下にあり、なんだかレトロなドアを開けて入ると手術室担当の看護師2名が笑顔で迎えてくれました。
それまで、緊張のキの字もなかった私ですが、看護師と話している時、その奥の方で克実先生が「疲れたぁ」といった感じで肩を落として歩く姿が目に入り、『だっ、大丈夫か?』とちょっとドキドキし始めました。
さて、ピーターくんとはここでお別れです。
「じゃあ、お帰りをお待ちしてます!」
ピーターくんはそう言って、私を送り出してくれました。
しかし、この言葉が看護師2人のツボにはまったらしく、歩きながら「お帰りを待つって変じゃない?」と2度も続けて言うので、なんかひとこと言った方がいいのかも?と、
「戦争に行くわけじゃないしね」
と言っておきました。
でも、患者みんなに言うんだろうし、決まり文句かもしれないけれど、そう言ってくれるピーターくんの言葉は、私にはすごーく嬉しかったです。
『ありがとう、ピーターくん』
感謝しながら手術室に入りました。
だだっ広い部屋の真ん中に人型のような低いベッドがあり、ガウンを脱いでそこに寝てくれというので言われるがままにそうしました。
ややあって、「はい、じゃー麻酔入れますねー」という、なぜそんな大きな声で?と思うくらいの声がして、数秒後、私の意識はなくなったのでした。
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