状態が落ち着いてくると、ご飯はNGだけど水分はいいよと克実先生が言うので、麦茶を飲んで過ごしていました。
たまに点滴の痛み止めもしてもらって、痛みもなんとなく少ししか感じない程度になっていたので、だんだん暇を持て余すようになってもいました。
とはいえ、あまり動く気にはなれないし、本を読んでいるくらいしかやることがないので、ホラー小説リングを再読したり(病気で入院してまでホラーなんて、さすがホラー映画友の会主宰者)して、ダラダラとして過ごしていました。
ある時、カラカラと点滴のカートを引っ張ってトイレに行こうと廊下に出たら、少し遠くのナースステーションカウンター前になんだか見慣れない人が立っていました。
数人の看護師と一緒です。
前回の入院の時はいなかったよなぁ~とちょっと観察してみると、なんともすっきりした顔立ちの涼しげな目の短髪のイケメンくんではありませんか。
『おーーーーーー!』
入院生活初のイケメン発見に、私の心は躍りました。
『あの子(たぶん息子と言っていいくらいのトシ)こっちの病室来るかなぁ』
来てくれるといいなぁ~と期待しつつトイレに向かいました。
期待とは裏腹にそのチャンスはなかなかやって来なかったので、ちょっと諦めかけた午後、やはり横向きで寝ていた私のベッドの脇から、「失礼します」と声がしました。
ハスキーで野太い声だったので、掃除のおじさんがゴミ箱でも取るために入ってきたのだろうと、声に背を向けたままでいました。
すると、
「あじゃみんさん」
いきなりその声が私の名前を呼んだのです。
『えっ?なに私?!』
驚いて振り返ると、廊下で見たイケメンくんがにっこり笑って立っていました。
( ゚д゚)ポカーン『そんなもう・・・ギャップありすぎやろーーーー!』
すっきりした顔立ちに違和感ありまくりの低音のハスキーボイスで、あまりにびっくりして声も出ませんでした。
「すみません、あじゃみんさん、血圧を測らせてください」
にっこりと笑ったイケメンくんは、そっと私の腕に血圧計のベルトを巻いたのでした。
『格好いいなぁ』
相当びっくりはしたものの、声と顔のギャップなんてすぐ埋まる!と自分に言い聞かせ、血圧を測ってくれた彼に「ありがとうございます」とお礼をいいました。
私の内心の葛藤など露とも知らないイケメンくんは、さっき初めて顔を見た時同様に、にっこりと笑って去っていきました。
ちょっとびっくりすることはあったけど、これ以降イケメンくんは、廊下ですれ違う時も可愛い笑顔で会釈をしてくれたので、なかなか楽しい気分になっていました。
時折り、ピーターくんから「あれはこれこれこうだから、こうして!」と受ける注意にも「はい!」としっかり答えて頑張っていました。
新人さん、なのでしょうか?
「頑張れよ、若者ぉ」
イケメンくんの奮闘ぶりに、だんだん、新入社員を応援するお局みたいな気持ちになった私でした。