だいぶ肌寒くなってきましたが、そんな冬の入り口のような季節に、最恐・霊能力建築士(なんじゃそりゃ)であるこまりんさんから、新作(?)を送っていただきました。
私と違って親孝行なこまりんさんですが、そんな中でも色々と起こってしまうようです。
ひとつ前のも、お勧めですよ。
月命日のお供えは・・・
父が亡くなってから月命日には、必ずお墓参りをしています。
亡くなる前に「死んだらなぁ~、墓にはビールとハイボールと日本酒とアンパンを供えてくれ。花と線香はいらないから」と言い残していたので、それを守ってあげるために、毎月お酒類とアンパンを持ってお墓に行っているのです。
いらないと言われたとはいえ、墓参りなので線香とお花も持って行っていますけどね。
月命日のその日に行くことにしているので、平日は仕事をしている私は早朝に行くしかありません。
週末に当たる時は昼頃に行っていますが、平日の場合は始発に乗って、お墓に着くのはだいたい朝の7時頃です。
寒くなってきたとはいえ、その時間になると明るいですし、それに実家よりお墓の方がよほど都会って場所にあるので、1人でも怖いという感覚はありませんでした。
ええ、あいつを見るまでは。
寺には誰もいない
父のお墓は、ある大きなお寺の敷地内の墓地にあります。
そのお寺は、いわゆる本堂と住居、そして墓地と、かなり広い敷地があります。ただ、現在の住職は二代目で、この住居部分にお住まいではなく通いで来られているので、普段はここには誰もいません。本堂も早朝私が着いたくらいの時は、雨戸も閉まって静まり返っています。
お墓自体はとても広いので、ゆっくりした時間に行く時などは、誰かしらがお参りに来ているのをよく見ました。
感じる視線
ある日の月命日。
いつものように早朝に到着して、お酒とアンパンをお供えし、お線香をたいて手を合わせました。
ふと見ると、父の墓から5列前くらいのお墓にも小柄な女性がお参りしている姿が見えました。
『随分早くから来てるんだなぁ~』
自分と同じとはいえ、そうそう朝の7時から墓参りをする人などいないと思っていたので、新鮮な感じはありました。
こちらから見えるのは後ろ姿なのですが、よく見ると白髪がはっきりと見えたので、結構年配の人なのかと気づいて納得。
『お年寄りは朝早いからね』
と、早朝のお参りの理由も納得していました。
ただ、ちょっと変だなと思ったのは、お墓に参っているというより、お供えなどを置く場所に頭をさげている感じに見えて、まるでお供えものに向かってお参りしているように見えました。
こうやって書いていますが、その女性を見たのはほんの一瞬で、実際にはほとんど気にせずにお参りを続け、父の成仏を願って手を合わせていました。
『・・・・なんだろう』
しばらく手を合わせていたら、なぜか前方から視線を感じるのです。
誰かがこちらをじっと見ているというか、私はそちらを見ていないのに、なぜかそんな感覚になったのでした。
『なんだろう?』
ちょっと嫌な感じはしましたが、いるとしたらさっきのお年寄りだなと思ったので、思い切ってそちらに顔を向けてみました。
「・・・・えっ?!」
視線のする方を見たら、さきほどの女性がこちらを振り向いて、私の方をじっと見ていたのです。・・・が、何を驚いたかといえば、その女性の顔です。
ないんです・・・なんにも。
目とか、鼻とか・・・、普通顔についているものが、まったくなーんにもないんです。
おでこから顎まで、真っ白い皮膚に覆われているだけののっぺらぼうだったんです!!
「ぎゃぁ~!!」
思わず叫んでそこから駆け出しました。
「なにあれ!なにあれ!信じられない!!!なんなのあれ~!!」
パニック状態で走っていたのですが、ふと走るスピードを落とすと、追ってくる足音が聞こえるんですよ!
結構なスピードで着いてきている足音が聞こえるんです。
「来ないでよ~!!!」
怖くて振り向くことも出来ず、一心不乱に走りました。
なんでも分かっている住職
墓地から出て、本堂の近くまで来た時です。
これから本堂にというご住職がニコニコ笑って道を歩いていらっしゃるのに遭遇しました。
「ああ、こまりんさん、今日も早くからご苦労様です。随分とお元気ですねぇ。仏様もにぎやかなのを喜んでいらっしゃるでしょう」
なんて笑いながら言うので、「ちっ、違うんですよ住職!出たんです!いたんですよぉ~!」と息を切らせながら言ったのに、住職は笑顔のまま「まぁ、ここにはたくさんの仏様がいらっしゃいますからねぇ」というので、「あれが仏様ですか!」と思わず大声を上げてしまったのですが、「お顔があろうとなかろうと、仏様は仏様ですよ」と落ち着いた口調で言われました。
「・・・・・・・」
私は「出た」と言っただけで、その他には何も言った覚えはありません。
なのに顔があるとかないとか、なんで?!
「・・・・・・・・・・・・」
なんと言っていいか分からず、それ以上言葉を交わさず帰ってきてしまったのですが、考えてみれば自分のお寺にあるお墓ですから、そういうのがいるのも分かっているんでしょうね。
「さすが住職」
妙に納得した私でした。
恐怖の月命日
それからも月に一度の墓参りは続いていますが、そいつを見てしまってからは、敷地に足を踏み入れる時にかなり警戒して父のお墓に近づくようになりました。
そのカオナシは、毎回いるわけでもなく、10回行ったうちの7回くらいは近くで見かけました。
私は絶対にそちらを見ないようにして、お供えをして手を合わせたら、走って墓地の入り口まで逃げ帰るという状況が続きました。
目も鼻も口も何もないのに、なぜか「見ている」視線は感じるんです。
これもまた恐怖を感じる理由でした。
何もないのに、こちらを見ているのがはっきり感じられるんです。
住職はああ言ってましたけど、怖いものは怖いんですから仕方ありません。
でも、警戒しながら行っていたので、とりあえずカオナシの顔を見ることは避けられていました。
欲しいものは、私の手の中に・・・
今月の墓参りの日のことです。
墓地に着くと、いたんですよ、あいつが・・・。
あるお墓に頭を下げていたので、そーっと通って見ないようにしながら父のお墓参りをして、よし、帰ろう・・・!と顔を上げると
「ひぇぇ~!!」
なんと、カオナシは3mくらい離れた場所に立って、私をじっと・・・微動だにせずにじーっと私を見ていました。
ええ、何度も言いますが、わかるんですよ視線が。
目なんてないのに、どこを見ているか分かるんですよ。
「・・・・・・ん?」
その"視線”の先に目をやると、それは私の顔ではなく、私の手元でした。
そして、その時私は手にアンパンを持っていたんです。
「・・・もしかして、これが欲しいの?」
幽霊ってアンパン食べるの?!なんて思いながら、そのアンパンをそーっと通路に置いて、一目散に駆け出しました。
「なんで墓参りに来て毎回走らなきゃならないんだ!」
理不尽な思いを抱きながら走り続け、やっとの思いで墓地の外に出ると、またもや住職とばったり。
「また出たんですよ!!もうどうにかしていただけませんか」
訴える私に住職は、いつものようにニコニコ笑って、「悪さをする霊はここにはいませんから、そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ」と言ったのです。
「そんなこと言われたって、怖いものは怖いです!」
正直に言う私に住職は「驚かすつもりはなかったようですよ。あの仏様は最初からあなたに憑いていましたけど、逃げられてしまって申し訳ないと思っているようです。ただ、あなたの持ってきたお供えをうらやましいと思っていたようです」というので、「もしかして、アンパンのことですか?」と聞くと、「そのようですね。昔はアンパンはとても貴重だったようですので。今回貰えて嬉しかったようです。どうでしょう、今度からあの方の分もお供えを持ってきてあげるというのは」と言われたので、「えっ・・・まぁ、それはいいですけど」と、結局次回からお供えのアンパンを2つ持って来ることになってしまいました。
「アンパンでそんなに喜ぶなら、バナナなんて持ってきたらどうなっちゃうんだろう」なんて、戦時中のような気分になったのでした。