あじゃみんのブログ

美味しいものや、経営する雑貨店のこと、女性の心身の健康について、その他時事ネタなど好き勝手に書いているブログです。

孤独と闇 第一章 干からびた黒いもの

文中に出てくる名前は、すべて仮名です。

あれは、2018年5月も終わりに近い、ある夜のことでした。
仕事中の私宛に、実家の母から着信がありました。

かかってきた電話の内容が分からないので、私に折り返して要件を聞いてくれというのです。

私は上に兄もいて、両親は高齢ですので、もう、少し耳も遠く、特に知らない人からの電話だと、内容を聞き取ったり理解したりするのが難しいのです。

その日も聞いたことのない相手からだったようで、何か大事な話らしいけど、なんだか分からずに困惑してしまい、やっとのことで相手の名前と電話番号を聞いて、娘に電話させますと伝えたとのことで、どこかも分からないところに電話するのは正直面倒な気もしましたが、仕方ないのでメモをした番号にかけてみました。

「はい。○県警、X警察署です」

なんと電話が通じた先は、東京近郊のある県のある警察署でした。


『なにがあった!?』

 

霊なら慣れっこの私でも、実家への電話が警察からの電話だったなんて、穏やかじゃありません。
ちょっと心臓が高鳴りましたが、聞いていた担当者の名前を言ってつないでもらいました。

電話に出た人は、捜査一課の田中という刑事でした。

 

「あー、どうも。お忙しいところすみません。うちの署の管轄にある蓬莱 仁さんのご自宅で、ご本人と見られるご遺体が発見されました。至急、ご本人確認にご足労いただきたいのですが」

というのです。

蓬莱というのは、私の旧姓であり、珍しい苗字なので親戚以外でお会いしたことはありません。
そして、蓬莱 仁はかすかな記憶だと私の叔父にあたる人だったはずです。

というのも、長男である私の父には2人の弟がいて、すぐ下の弟とは実母が同じ、そして一番下の弟は父の父、つまり私の祖父が再婚した女性との間に出来た子供でした。
祖父は、再婚と同時に上の2人を親戚に預けて別居してしまったことから、父はその後生まれた弟とは一緒に育っていないのです。


一軒家を構えていたので、連絡先などは分かっていたようですが、私たち子供が生まれてからは、行き来などまったくせず、疎遠になっていたようです。

このため、この叔父には、私自身生まれてから一度も会ったことがありませんでした。
だから、確認といっても、できるかどうかという感じでしたが、その時は、まぁ、面影があるとかそんなくらいでもとりあえず良いのかと思ったので、当時病気で療養中だった父の代わりに○県警X警察署に向かいました。

仕事を切り上げて出発したのが、既に20時を回っていたので、当の警察署に着いた時は21時をとっくに過ぎていました。
そんな時間でも、担当の刑事さんが待っていてくださったので、すぐに遺体の確認となりました。

霊安室に向かう廊下を歩きながら、その刑事が「あぁ、まだ言ってませんでしたけど、ご遺体は死後相当時間が経ってまして。そうですねぇ、半年とか1年とか、パッと見てそのくらいでしょう」なんてのんきに話すので、「それって普通、先に言いませんか?」と少しイラっとして言いました。

だって、そんなに時間の経った遺体って・・・。
想像して、嫌な気分になった私です。

私の怒った口調を聞いても、慣れているのかその刑事は「あ、やっぱり気にしちゃいます?」なんて言うのです。
話す気もなくなって、無言で着いていきました。

そうこうしているうちに霊安室に到着し、重たいドアを開けて中に入ると、部屋の真ん中に台があり、その上にビニールシートに包まれた何かが・・・。
普通、人の形って輪郭でわかるじゃないですか。
でも、それはなんかこう、いびつというか、人が寝ている・・・という感じはないのです。

唖然としている私に遠慮もなにもなく、遺体に近づいた担当刑事は、いきなりそのビニールをバサッとめくると、「どうですか?あなたの叔父さんですかねぇ・・・確認できますか?」と笑顔で聞きました。

「・・・・・・・」

あなたの叔父さんですかといわれても、前述の通り私は叔父に一度も会ったことがありません。
しかも、目の前にあったのは、真っ黒な干からびた枝みたいなもので、正直言って「人間」かどうかもわからない状態のものでした。

それに顔と思われる場所にあった目と口と思われる穴は、くわっと大きく開いていました。
大きくて真っ黒なでこぼこの木から伸びた干からびた枝のような腕や足・・・いや、腕や足だったものという言葉でしか表現できない物体が目の前にありました。
ご遺体に対してこんな表現は酷いとは思いますが、それだけ見たこともないような酷い状態だったのです。

後ずさりして固まっている私に、その刑事がまた「あっ、もしかしてご遺体とか、こういうの見るのはじめてですか?」と半笑いで聞いてきたのです。
こいつ、日ごろのストレスを一般市民で紛らわせているんじゃないだろうな・・・と殺意すら沸いてきました。

「それも、普通、最初に聞くことじゃないですか」

にらみながら言うと、ちょっとたじろいだ刑事が、「すみません。そうですよね~。ん~そっか~」と言って、ハハハと笑いました。

「それに、私は叔父とは一度も会ったことがないんです。面影でもと思って高齢の父に代わってきましたけど、これ見て分かると思いますか?こんなに真っ黒に干からびてて人にも見えないし」

怒って言う私に刑事は、「真っ黒いのは、いわゆる孤独死などで時間が経って、体液が全部出てしまったからだと思われます。そうするとこういうミイラちっくな雰囲気のご遺体になるんですよぉ。珍しいですか~、こういうの?」なんて、またものんきに言いました。

ミイラちっくって、あんた何言ってんの?!
遺体を見慣れている人なんて滅多にいるわけないだろう!そもそも孤独死の遺体なんてどうやって見慣れるんだよ、おりゃぁ~!!!!

心で絶叫しながらも、実際は黙って刑事の顔を見ていました。

「あ、じゃあ、DNA鑑定しますね~。死因の特定も解剖に回すことになりますから、ご協力お願いします」

「・・・・・わかりました」

結局、黒く干からびて目と口を大きく開けた人のようなものを見せられただけで、この日は帰ることになりました。

父と2番目の叔父用のDNA鑑定キットをいただき、警察署をあとにしました。


第二章 予兆