あじゃみんのブログ

美味しいものや、経営する雑貨店のこと、女性の心身の健康について、その他時事ネタなど好き勝手に書いているブログです。

いまさらシリーズ-コトリバコをリライトしてみた。

もうだいぶ前の話ですが、コトリバコという話が流行った時期があり、映画などにもなりました。

一番初めはどこかの掲示版からだったようですが、暇つぶしに怖い話を探していたら、ひさしぶりにコトリバコが出てきて、読んでみたら面白かったのでまだ知らない方向けにご紹介します。

 

今の時代だと差別的に感じられるところもありますが、昔の話として作られていますしそんな意図は感じられないので、物語として紹介します。

掲示板だと行ったり来たりの口語調で書いてあるので少し読みにくいため、リライトしました。

 

進行上、話の筋にあまり関係ない部分は創作が混じっています。
本筋には手を加えていません。

それでは、お楽しみください。

 

「コトリバコ」

 

この話は、先日友人との間に起こった出来事です。

幼なじみの学とは、30歳を過ぎた今でも頻繁に会い、よく酒を飲みに行く仲です。学の家は地元でも大きな神社で、長男が代々神主をしている家でした。

学も何代目かは忘れましたが、いずれは神主になるとのことでした。

ある日、私と学の彼女も含め、4人で飲みに行こうという話になり、一旦私の家に集合して駅近くの居酒屋に行くことになっていました。

学と学の彼女の恵子ちゃんは、約束の時間にはすでに集まっていましたが、私の彼女の聡美からは、メールで「少し遅れる」という連絡があったので、買ったばかりのゲームをしながら待っていることにしました。

聡美のメールには、「面白いものが自宅の納屋から見つかって、家族で夢中になっていたから遅れてしまった。明(私のこと)はパズルが得意だと思ったから、今からそれを持って行く」というようなことが書かれていました。

納屋から見つかった面白い物とはいったい何なのか気になりましたが、パズルは確かに好きだし得意だったので、何かパズルのような物を見つけて家族でそれを解こうとしていたのかと想像できました。

 

「持ってくるってことは、結局解けなかったってことか」

 

メールを見ながらつぶやいていると、なんだか視線を感じるので顔を上げると、学がじっと私の顔を見ていました。

 

「なんだよ、俺の顔になにか付いてるか?」

 

笑いながら言った私に、学はにこりともせず、「いや、そうじゃないんだが、ちょっとやばいよ、今日、家にはおやじいないし」と言ったのです。

 

「えっ?もしかして、また何か出たとか?」

 

聞き返した私の言葉を無視して、学は「やっばいなぁ」と本当に困ったような顔をして繰り返していました。

学には、いわゆる霊感があり、昔から私や周囲の者に見えない物が見えているようでした。

幼い頃には、学が突然「XXXちゃんの後ろにおばあちゃんが立ってる」なんて言い出して、周囲を何度も困惑させ、また、「変なことを言う子供」という印象を与えていました。

しかし、長ずるにつれて、それがいわゆる「この世の者でない者が見える」という霊感だということで周囲に認識されるようになっていきました。
神主さんの子供だから、そういう能力があるんだろうと、特別学を仲間はずれにするようなこともなく、私たちは仲の良いまま大人になりました。

 

それに、学自体は、その体質が嫌でたまらなかったらしく、また何かが見えた時にはひどく怯えることも多く、決して自分が見たことを面白おかしく話すようなこともなかったため、学に対してあまりそのことを突っ込んで話すやつはいませんでした。

私自身も、一緒に道を歩いている時、大声をあげられたことがあり、その時はさすがに「お前、何を見たんだよ」と怒鳴ってしまいましたが、本人のあまりの怯えように、それ以上は何も言えませんでした。

結局、その時何が見えたのか、今でも分かりません。

その学が「おやじ」と呼んでいるのは、神社の神主でもある自分の父親ですが、普段は特に話もしない父親のことを話すということは、学本人では対処しきれない何かの力が働いていることが考えられました。

「出たなんてレベルじゃないや。明、これ本当にやばいよ。聡美ちゃん、困ったなぁ」

大げさとは思いながらも、学の青ざめた顔を見て、なにかかなり危ないことが起こりつつあることを感じました。

さて、どうしたものかと思っていると、ほどなく玄関のベルが鳴り、聡美が入ってきました。

「ごめーん!すっかり遅くなっちゃって・・・。だってね、本当に面白い物が見つかったんよ」

そう言いながら鞄から何かを取り出そうとする聡美を制して、学は真顔で言いました。

 

「聡美ちゃん、それかなりやばいものだよ」

 

「えっ、本当に?・・・やだ、どうしよう」

 

一瞬にしてうろたえる聡美でしたが、無意識だったのか、バッグから四角い箱を取り出しました。

 

「だっ、ダメだよ、それ以上触ったら危ない・・・」

 

学はそこまで言ってから、立ち上がってトイレに駆け込むと、ひどくおう吐し始めました。

恵子ちゃんが追って行って、「大丈夫」と言っている声が聞こえてきました。
音だけ聞いていてもこちらも気持ちが悪くなりそうなほどひどい吐きっぷりだったので、背中でもさすっていたのでしょう。

 

しかし、私はどうにもその姿を見る気にならず、茫然とする聡美と一緒にその場から動かずにいました。

ただ、出してあった箱は、聡美に言って元のバッグに戻させておきました。
聞けば、自宅の納屋を解体することになったとかで、その片づけをしている時に見つかったものだということでした。

 

しばらくして、やっと気分も治まったのか部屋に戻ってきた学は、携帯電話を取り出すと、「おやじに聞いてみる」と小さくつぶやいてボタンを押しました。

そして、聡美の方を向いて手を伸ばし、「箱、出して」と言ったのです。

聡美は驚いた顔をして私の方を見ましたが、私がうなずくとバッグからふたたび木の箱を取り出しました。

学は箱を受け取ると少し震えている声で「おやじ、大変なことになった」といつ通じていたのか分かりませんが、受話器の向こうで聞いている父親に話し始めました。
そして驚いたことに、学は泣いていたのです。

 

「聡美ちゃんが、こ・・・コトリバコ持ってきた」

 

震える声でそういうと、学がコトリバコと言ったその木箱が、ちょっと揺れたような気がしました。
たぶん、揺れたのは学が箱を持っていた手でしょう。

 

「俺怖い。じいちゃんと違って俺じゃ、じいちゃんみたくできんわ・・」

 

話しながら、ボロボロと涙を流す学を見ていたら、背筋が寒くなり、私まで泣きそうになりました。

見れば、恵子ちゃんと聡美はすでに泣いています。

 

「うん、ついちょらん。箱だけしか見えん」

 

父親から何かを聞かれたらしく、学は箱をひっくり返したりしながら何かを確認し、そう伝えました。

 

「跡はあるけど、残っちょらんかもしらんわ。・・・うん、少し入っちょる。友達のお腹のところ」

 

学が聡美の腹のあたりを見ながら言いました。
みんな一斉に聡美を見ます。

 

「嫌だ、入ってるってなに?」

 

聡美が泣きながら自分の腹を見つめてそう言いました。

 

「シッボウの形だと思う・・・シッポウだろ?中に三角がある。シッポウ」

 

私たちは学に視線を戻しましたが、会話の中身が分からないので、このシッポウという言葉の意味もさっぱり理解できませんでした。

 

「間違いないと思う・・・、だって分からんが!俺は違うけん」

 

それから、何やら難しい言葉(何かの専門用語でしょうか)で話をしていましたが、繰り返していたのは、シッポウという言葉とコトリバコという言葉でした。

まだ何か色々言っていたと思いますが、とても覚えられませんでした。

 

「分かった。やってみる。ミスったら祓ってや、父ちゃん、頼むけんね」

 

学はそういうと、電話を切りました。
そして、私たちの前に座ったまま、2分くらい大泣きしてから「よし!」と気合を入れたかと思うと、正座をし、膝のあたりをパシッと叩きました。
顔を上げた学は、何かを決意したように、もう泣いていませんでした。

 

「明、カッターか包丁貸してごせや」

 

“ごせ”というのは、こちらの方言で「~してくれ」という時に語尾につける言葉です。

 

「なんだよ、刃物なんて物騒なもん何に使うんだよ」

 

無駄だと思いながらも、怖くて仕方なかったため、そんな風に突っかかってしまいました。

 

「別に誰か殺そうっちゅうんじゃない、聡美ちゃん、祓わないけん」

 

そして、聡美の目をじっと見て「聡美ちゃんも、俺見て怯えるなっちゅうのが無理な話かもしらんが、でも、怯えるな」そして私の方に向き直ると、「明も恵子も絶対に怯えるな、負けるか!負けるかよ!」と叫ぶように言ったのです。

 

「なめんなよ。俺だってやってやら。じいちゃん、見ててくれ」

 

最後のひとことは、自分を鼓舞するように低い声で言いました。

 

「さっ、明、包丁かカッター」

 

学が再度いうので、私は台所から包丁を持ってきて渡しました。
学は、うむといって受け取ると、包丁を手に持ったまま、「明、俺の太もも思い切りつねってくれ」と言いました。

 

「はぁ?つ、つねるのか?」

 

なんだか分かりませんでしたが、もうその時は学のいうことを聞くしかないという気になっていたので、恐る恐る手を伸ばして、学の太ももをつねりました。

 

「違う、もっと力入れて!」

 

叫ぶように言う学の声に押されて、つねる力をさらに強めました。

 

「うぐ・・・でぁああああ!」

 

学はそう叫んだかと思うと、持っていた包丁で自分の手の平を切りつけたのです。

 

「わっ!お前、何やってんだよ!」

 

びっくりしてそう叫びましたが、学は私の声など聞こえないように、血のしたたっている手の指を聡美の口に無理やり突っ込むと、

 

「まずいだろうけど、飲みぃ!」

 

と叫びました。

聡美はびっくりして目を剥いていましたが、学のあまりの剣幕に顔をそむけることもせず、そのまま学の指をくわえていました。

学はそのままの姿勢で、なにやら呪文だか祝詞だか分からない言葉をつぶやきながら、目を閉じて祈っているようでした。

 

そして、その呪文のような言葉を5、6回繰り返すと、「えい!」と叫んで聡美の口から指を抜きました。

聡美は前のめりになって「グエッ!」と叫んだかと思うと、学の血の混じったものを吐き出しました。

 

「よし!出た!これで聡美ちゃんは大丈夫や」

 

そして、その血まみれの手を聡美の持ってきた箱にのせると、また何やら呪文を唱え始めました。

 

「コトリバコ、コトリバコ・・・・」

 

私に分かったのは、コトリバコという言葉だけでした。
呪文・・・と言いましたが、正確に言うとなにか民謡のような歌のようにも聞こえました。

『この床、誰が掃除するんだ』


聡美の吐しゃ物を眺めながら、絶望的な気持ちになっていました。

 

「いかん、やっちょけば良かった」

 

歌っていた学は突然そんなことを言うと、血まみれの手で携帯を取って私に差し出すと、「明、父ちゃんに電話してごせや」と言いました。

断れるはずもないのですが、血に染まった携帯電話を受け取るまでに時間がかかったのは言うまでもありません。

 

早うせーや!

 

床にゲロを吐かれた上に、血まみれの携帯で電話を掛けさせられるなんて、少し前にゲームをして遊んでいた時には思いもかけないことでした。

しかたなく、履歴から学の父親の番号を呼び出し、電話を掛けました。

 

「とうちゃん、ごめん忘れた、一緒によんでくれ」

 

学は相手が出たと同時にそう言いました。

 

「よんでくれ」というのは、読む、なのか、詠む、なのか聞いていてもよく分かりませんでした。

 

それからまた箱に手を当てたまま、何やら歌っていましたが、終わると「ありがとう」と言って電話を切り、そしてまた大声で泣き出しました。

恵子ちゃんも聡美もその声につられたように大声で泣き始め、とうとう私も一緒になって泣いてしまいました。

そして、大の大人が4人で抱き合って、しばらく泣き続けたのです。
しかし、記憶が定かではありませんが、その間も学はずっと手を箱の上に置いたままだったと思います。

 

20分くらい経った頃でしょうか、学は唐突に泣くのをやめました。
そして、それが合図だったかのように、私たちの嗚咽も止まりました。

学は、右手を箱の上に置いたまま、「明、この箱と手を結べるタオルみたいなのあるかな」と聞くので、私は急いで箪笥から長めのタオルを出してきました。

 

「それで縛ってくれ」

 

箱を持ち上げて差し出した手をタオルでしっかりと結わきました。

 

「さて、これで一安心。じゃ、どこに飲みに行く?」

 

にっこり笑って言う学に一同あ然。

 

「・・・冗談じゃ、さすがに今日はもう無理」

 

学の言葉に呆れ、私たちの笑いもなんだか乾いたように聞こえました。
そしてその日は全員を車で送って行き、部屋に戻った私は忘れていたアレを掃除すると、冷蔵庫にあった缶ビールを飲んでそのまま眠ってしまいました。

それから、学は8日ほど会社を休んだようです。
後から聞いた話では、よほど今回のことが体に堪えたのか、ほとんど寝たきりのようになっていたそうです。

 

しばらくして、やっと学に会う時間が出来たので、今回のことを聞いてみました。

「あ~っとなぁ。聡美ちゃんところは言い方悪いかもしらんが、◎山にある部落でな、ああいうところには、ああいったものがあるもんなんよ。あれはとおちゃんが帰ってきてから安置しといた」

そういうと、「まぁ、あんまり知らん方がええ」と言って、あとは何を聞いても詳しいことを話そうとしませんでした。

 

ただ、最後に「まぁ入ってる物は、けっこうな数の人差し指の先とへその緒だけどな・・・ 、差別は絶対いけんってことだ、人の恨みってのはこわいで、あんなもの作りよるからなぁ。アレが出てきたらな、俺のじいちゃんが処理してたんだ。じいちゃんの代であらかた片付けた思ってたんだけど、まさか俺がやることになるなんてなぁ。俺はふらふらしてて、あんまり家のことやっちょらんけぇ、まじビビリだったよ。ちょっと俺も勉強するわ まぁ才能ないらしいが。それとな、部落云々とか話したけど、差別とかお前すんなや・・聡美ちゃんとも今までどおりな。そんな時代じゃないしな~ アホくせぇろ」と言って、私の肩を叩きました。

 

「当たり前だろ、部落とかなんとか、アホらしい。それよりさ、この話誰かにしてもいいのか?」

 

「お前、こういう話好きだなぁ、幽霊も見えないくせに」

 

「見えないからこそ好きなんよ」

 

「別にええよ。話したからって、何かに憑りつかれるわけじゃないし、しかし、どうせ誰も信じねぇよ、うそつき呼ばわりされるだけだぞ、聞かれても俺はとぼけるからな」

 

学はそう言って笑いました。

 

その後、当事者4人で会って、聡美の話を聞く予定だったのですが、聡美が聡美の両親、祖父母、そして例の納屋の解体の日に騒動があったという隣家のおじさんも含めて話がしたいということだったので、学と恵子ちゃん、そして私は待ち合わせをして聡美の家に向かいました。

ここからは、極力方言は使わずに伝えようと思います。

聡美のご両親やお爺さん、そしてお婆さんは、たぶん県外の人からしたら「異国の言葉」を喋っているようにしか聞こえないでしょうから。

私の自宅でのことがあった2日後、聡美の家に解体業者が来て、あの「コトリバコ」の見つかった納屋を解体することになっていました。

 

業者が到着し、準備をしていると隣の家の伊藤さんが聡美に「なにが始まるのか」と話しかけてきたそうです。

納屋を解体することになったと伝えると、伊藤さんは青い顔をして「その納屋を壊してはいけない」と訴えたそうです。

あまり強く言うので、聡美は「もしかしたら、あの箱のことを知っているのかも」と、伊藤さんに「おじさん、もしかして、コトリバコのこと知ってるんですか?」と聞いてみたそうです。

すると伊藤さんはびっくりした顔で「コッ、コトリバコが見つかったのか?それでお前は大丈夫なのか?」と聞き、「それで、箱はどうしたんだ」と畳みかけるように聞いてきました。

 

聡美は、この時点では家族にも私の自宅での出来事は話していませんでした。

聡美は、青くなっている伊藤さんに2日前の出来事を話しました。
すると伊藤さんは「聞いておかんかったからこんなことになった、話しておかんかったからこんなことになった」と言い、「これは自分の責任だ。近いうちにお宅の家族に話さないけんことがある」そう言うと自宅に帰っていきました。

聡美は、伊藤さんがコトリバコのことを「自分の責任」だという意味が分からず、いったいどうしたものかと思っていたら、私から電話があり、何かあるなら学のいる時がいいということで、私たちは聡美の自宅を訪ねることにして、聡美は聡美で家族に騒動の話をしてから、父親と一緒に隣家に行って、伊藤さんに話をしてくれるよう説得し、一同が聡美の家に集いました。

聡美と家族は、伊藤さんに話をしてくれるよう促しましたが、私と恵子のことを見て「この人たちの前で話してもいいんかの」と言いました。

確かに、我々は部外者ですから、そういわれても仕方ないのかも知れません。

すると学が「では、僕から話してもいいでしょうか」と言って、話を持って行きました。

「伊藤さん、本来、あの箱は今あなたの家にあるはずではないのですか? 今の時代、呪いといっても大概はホラ話と思われるかもしれないが 、この箱については別。僕は祖父、父から何度も聞かされていましたし 実際、祖父と父があれを処理するのを何度か見てきました。箱の話をするときの二人は真剣そのものでしたし、管理簿もちゃんとあります。それに事故とはいえ箱でここの人が死んだこともありましたよね」

 

人が死んだという言葉に全員が反応していました。
額に汗が浮かぶのが分かりました。

 

「今回僕が箱に関わったってことと、父が少し不審に思うことがあるということで改めて昨夜、父と管理簿を見たんです。 そうしたら、今のシッポウの場所は伊藤さんの家になっていました。そうなると話がおかしい。父は「やっぱり」と言ってました。 僕の家の方からは接触しないという約束ですが今回ばかりは話が別だろうと思って来ました。 僕の父が行くといったのですが、今回祓ったのは僕なので僕が今日来ました」

 

学は言い終わると、伊藤さんの顔をじっと見ていました。

我々には、なんだかさっぱり分からない話です。
何もいわず、ふたりを見ていることしかできませんでした。

学は立ち上がると、伊藤さんを見ながら、話し始めました。

 

「伊藤さん。あなたの家に箱があったのなら、聡美のお父さんが箱のことを知らないのは仕方がないし、なんとか納得はできます。 聡美のおじいさんはTさんから引き継いで、すぐに亡くなられていますよね」

 

聡美のおじいさんは我々が知り合った時、つまり中学生の時にはすでに亡くなっていたそうです。

 

「管理簿では、T家⇒聡美ちゃんの家⇒伊藤家の移動が1年以内になっていました。聡美ちゃんのおじいさんがお父さんに伝える時間が無かったのだろうと理解はできるんです。それに約束の年数からいって、聡美ちゃんのお父さんに役回りが来ることはもう考えにくい。 あなたかT家で最後になる可能性が高いですし。でも、今回箱が出てきたのは聡美ちゃんの家だった。これはおかしいですよね。 僕、家のことはあまりやってなかったので、管理簿をまじまじと見たことなんてなかったんですが、昨夜父と管理簿をみて正直驚きましたよ。さっき、聡美ちゃんの話を聞くまでは、もしかしたら何か手違いがあって、あなたも箱のことを知らなかったのかもしれないと考えてたのですが、あなたは知っていますよね? 知っていたのに引き継いでいない。そして聡美ちゃんの家にあるのを知ってて黙っていた」

 

怒りの表情で学は伊藤さんを見ていました。

 

「今回のこと、無事に祓えたんであとは詮索されてもとぼければ済むかなって思ってたんですよ。何かの手違いで聡美ちゃんの家の人みんなが知らなかっただけで結果オーライというか・・・  正直焦りまくったし、怖かったですから。今日だって、昨日父と管理簿見てなかったらここには来ていなかったと思います。 本来の約束なら、僕の家からこっちに来ることは禁止ですからね。 だから今日僕が来たってことは伏せておいて欲しい。でも、そういうわけにはいかなくなったみたいです。僕は怒ってますよ。僕の父もね。 ただ、顔も知らない先祖の約束を守り続けないといけないって言うのは、相当酷な話だというのも分かります。逃げ出したいって気持ちも。僕だってそうでしたから。 僕だってあの日、箱を見ただけで逃げ出したかった。わずかな時間のことだったのに、本気で逃げようかと思った。下手すれば十数年、いや何十年保管するなんてどれだけ怖いのかでも、もしこういったことがここ全体で起きているのだとしたら残りの箱の処理に関しても問題が起きます。聡美ちゃんはたまたま、本当にたまたま箱に近づかなかったっていうだけで、そして、たまたま、本当に偶然あの日僕と会うことになってたってだけで・・・ もしかしたら聡美ちゃんは死んでいたかもしれない。 そして、もしかしたら他の箱で被害がでているかもしれない。 だから、なぜこういうことになったのか話していただけませんか? それと恵子はその場にいた女です。もちろん子供を生める体です。 部外者ではないです。被害者です。それと明は、部外者かもしれませんが、そうでもないかもしれません。 こいつの名前は◎○です。ここらじゃそうそうある苗字じゃないですよね?◎○です」

 

学は、私を指さして、人からめずらしいと言われる私の苗字を繰り返し口にしました。

ただ、そう言われても私には学が何を意図して私の名前を繰り返しているのかは分かりませんでした。

ですが、そう言われた伊藤さんはというと、私をじっと見つめながら、「ああ、そうか・・・」と吐き出すように言ったのです。

そして、「しかたない」と小さくつぶやくと、我々に顔を向けて、話し始めました。

 

「まず、箱のことを説明したほうがいいですかな。チッポウ(その時までシッポウかと思っていましたがチッポウというようでした)は聡美ちゃんの家、伊藤家、 そして斜め向いにあったT家の3家で管理してきたものです。 この3家に割り当てられて箱です。そしてあの箱は3家持ち回りで保管し、家主の死後、次の役回りの家の家主が葬儀後、前任者の跡取りから受け取り、受取った家主がまた死ぬまで保管し、また次へ、次へと繰り返す。受取った家主は、跡取りに箱のことを伝える。跡取りが居ない場合は、跡取りが出来た後伝える。どうしても跡取りに恵まれなかった場合には、次の持ち回りの家に渡す。そうなっていました」

 

伊藤さんは、ふーっと息を吐いてからまた続けます。

 

「これは、他の班でも同じです。家の数は変わりますが。そして他の班が持っている箱については、お互い話題にしないことにしていました。回す理由は、箱の中身を薄めるためです。箱を受取った家主は、決して箱に女子供を近づけてはいけない。そして、箱を管理していない家は、管理している家を監視する。また、学くんの家から札をもらい、箱に貼ってある古い札と貼り替える。約束の年数を保管し、箱の中身が薄まった後に学の家に届け処理してもらう。XX神社(学の実家です)と昔にそういう約束をしたらしい」

 

伊藤さんが学の顔を見たので、その言葉を学は受け取りました。

 

「それで、僕の家は昔の約束どおり持ち込まれた箱を処理・・・・いや、供養していたんですね。ここにある全ての箱と、箱の現在の保管者の管理簿をつけて」

 

「そうです。本来なら、私が聡美ちゃんのおじいさんが亡くなったときに箱を引き継ぐはずでした。でも、本当に怖かったんです、申し訳ない、許して欲しい。前任者Tの父親が死に、引き継いだ聡美ちゃんのおじいさんもたて続けに死んでしまった。男には影響がないと分かっていても怖かった。そんな状態で、いつ聡美ちゃんのお父さんが箱を持ってくるのかとずっと怯えていたんです。でも、葬儀の後、ずいぶんと日が経っても聡美ちゃんのお父さんは来ない。それでT(前任者の跡取り)と相談したんです。 もしかしたら聡美ちゃんのお父さんは何も知らないのかもしれない、我々は、箱から逃げられるかもしれないと。そしてまず、聡美ちゃんのお父さんに箱のことをそれとなく聞き、何も知らされていないことを確認しました。 そしてとりあえず納屋の監視は続け、聡美ちゃんの家に箱を置いたままにしておくこと、Tは札の貼り替えをした後、しばらくして引っ越すこと(松江に行ったらしいです) にしました。そうすれば、他班からは「あそこは終わったんだな」と思ってもらえるかもしれないからです。箱を引き継ぐはずだった私が、聡美ちゃんの家の監視を続けることも決めました。 そして、約束の年が来たら私が納屋から持ち出しXX神社に届けることにしたのです。 そして・・・・ 本当に、本当に申し訳ない、それまでに箱に聡美ちゃんや聡美ちゃんの母が近づいて、死んでしまったとしても箱のことは聡美ちゃんの家は知らない、他班の箱のことは触れることは禁止だからばれることは無いだろうと、Tと相談したんです。本当に申し訳ないことをしました」

 

そこまで一気に言うと、伊藤さんは土下座をして頭を畳にこすりつけて詫びました。

 

話を聞いていた聡美のお父さんによると、聡美のお父さんは、死んだおじいさんに納屋には絶対に近づくなとは言われていたそうです。

また、その納屋も実際にずいぶんと気味の悪い暗い雰囲気の納屋だったので、あえて近づこうとは思ってなかったとのことでした。

それで、今回どうせなら納屋を壊そうという話になり、中の整理をしていて聡美があの箱を見つけてしまったということでした。
その場にいた家族も我々も信じられないという思いで聞いていましたが、なぜか聡美のお婆さんだけはなにやら納得したようにうなずいて、「だから納屋だけは近づかせてもらえなかったのか」という風なことをつぶやいていました。

学は、伊藤さんをまたじっと見つめると、「なるほど、そういうことでしたか・・・引継ぎはしなかったとはいえ、監視しなければならず、結局は箱から逃げることは出来なかったんですね。 結局苦しんだと。決まりの年までたしかあと19年でしたよね? ・・・引き継いでいたとしても結局は僕が祓うことになってたのかな」と言って少し笑いました。

 

そして、聡美の家族の方に顔を向けると、「現実味の無い話で、まだ何が何だか分からないと思います。 でもこれは現実で、このご時世にアホみたいに思うかもしらんが、現実です。でも、伊藤さんを怒らないであげてほしい。 あの箱が何か知ってるもんにとっちゃ、それほど逃げたいもんだけん。まぁ、もう箱はないんだけん安心だが?面白い話が聞けて楽しかったと思って伊藤さんを許してやってください」

そう言いました。

 

伊藤さんは、うつむいてうなだれて、見ていてなんだか痛々しかったです。

 

「それから・・・たぶんみんなあの箱の中身が何かを知りたいでしょう。ここまで話したのだから、最後まで話します。すべて聞いて欲しい」

 

そう言って、聡美が見つけた「コトリバコ」について、語りだしました。

 

それは、学自身もすべてを知っているわけではなく、そこで語られたことはおじいさんや父親から聞かされた話だそうですが、残りの箱はあと2つあって、それは学が祓わないといけないものだから、自分の決意もあるといい、聡美のお父さんも本来知っておかなければならないことだと言いました。

 

「それに、明はたぶん話とかんと、しつこいけんな」

 

学は私の顔を見て言いました。

 

「あの箱は、子供を取る箱、子取り箱といって、間引かれた子供の体を入れた箱です」

 

学の話は、そこにいた全員に衝撃を与えました。

 

箱が作られたのは、1860年代から80年代前半頃で、この部落は・・・今は、差別用語として部落という言葉は使いませんが、当時の状況を話すためにあえて使います。このあたりで特に酷い差別、迫害を受けた地域でした。
あまりにも酷い迫害だったため間引き・・・つまり堕胎もかなり行われていました。この部落は△▼(地域名ですが、伏せます)の管轄でした。しかし、特にこの△▼の人々からの迫害が酷かったようです。

 

なかなか働く先も見つからず、働き手が欲しいから子供は作るがまともな収入がないため生活が苦しくて子供を間引くと・・・・。
そして、1860年代の後半に隠岐の島で島民と壱岐国を支配していた松江藩との争いが起きた。天皇をないがしろにする江戸幕府松江藩に反発した島民が島から藩を追い出してしまった「隠岐騒動」と呼ばれるこの反乱は、結局1年ほどで平定されたが、そのとき反乱を起こした側の1人がこの部落に逃れてきたそうです。

 

「島帰りってやつか」

 

「そうだ」

 

そして、その逃げてきた人の苗字が私と同じだったということです。自分の本名を書くことはできないため、仮にTとしますが、そのTは反乱が平定されてこちらに連れて来られた時に隙を見て逃げてきた。そして、この部落に辿り着いたが部落の人々は余計な厄介ごとを抱えるとさらに迫害を受けてしまうと、Tを殺そうとしたらしい。

それを察したTは「もし命を助けてくれたら、お前たちに武器をやる」と人々にいったそうです。部落の人々は、その武器がどんなものかを聞いた上で協議し、Tの条件を飲んでTを殺すことはやめました。

 

するとTは、もうひとつ条件を出してきました。その武器というのは小箱で、作り方を教えるが一番最初に作った箱は自分に譲って欲しいというのです。そして、その条件が飲めるなら教えるし、もし飲めないのであれば、殺せと言って口を閉じました。

部落の人々は、Tの条件を飲み、Tは箱の作り方を教えました。
Tはなぜか、箱の作り方を聞いた後でやめてもいい、そして殺してくれても構わないとも言ったそうです。

それだけ、禍々しいものだったからでしょう。Tも思うところがあったのか、「やり遂げたら、自分も命を絶つが、それでもやらなければならないことがある」と言ってから、箱の作り方を人々に教えました。

学はそれから箱の作り方も話したのですが、とてもすべてを書くことはためらわれるので、多少省きます。

その箱は、最初に複雑に木の組み合わさった木箱を作ります。寄木細工のようなものでしょうか、言葉だけの説明だったので、あまりよく分かりませんでしたが、学が「パズルのような箱」と言っていたし、そういえば聡美が箱を持ってくるときも「明はパズルが得意・・・」と言っていたので、そんなものでしょう。

Tの説明する武器となる箱、それは、そんな箱をまず作ることから始まりました。
次にその木箱を雌の畜生の生の血で満たして、1週間ほど待ちます。そして、完全に乾ききらないうちに蓋をします。

次にその箱に入れる「中身」を作るのです。

 

「それが、子取り箱という名前の由来だと思う」

 

学は続けました。

 

「間引いた子供の体の一部を入れるんだ。生まれた直後の子は、へその緒と人差し指の第一関節くらいまでの指の先、そしてハラワタから絞った血を入れる」

 

ここまで聞いて、私は自分の体が小さく震えていることに気づきました。
学は、なおも続けます。

 

「そして、7歳までの子は・・・」

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれ!7歳までって、間引くっていうから、単に堕胎させるんだと思っていたのに、現実に生まれた子供まで殺していたってことか?」

 

「そうだよ。言っただろ?働き手が欲しいから子供は作る・・・つまり産ませるんだよ。だけど、口減らしのために、後に殺された子も多かったんだ」

 

「なんてことを・・・」

 

後ろで聞いていた恵子ちゃんが小さく悲鳴を上げました。
学は、それでも話をやめようとはしませんでした。

 

「7歳までの子は、人差し指の先とその子のハラワタから絞った血を。そして10歳までの子は、人差し指の先だけを入れるんだ」

 

そして、箱の蓋を閉じるのだが、その中に閉じ込めた子供の数、歳の数で箱の名前が変わるとのことでした。

 

「1人でイッポウ、2人でニホウ、3人でサンポウ、4人でシッポウ、5人でゴホウ、6人でロッポウ、そして、7人でチッポウといい、それ以上は絶対にダメだとTは念を押しました。それから、それぞれの箱に目印として印をつけておきます。イッポウは△、ニホウは□といった具合に中身が何かが分かるように記号をつけるのです」

 

Tは、ここまで話すと「実は、8人入れる箱はハッカイというのだが、自分が持って行く箱はハッカイにして欲しい。7つまでの子を8人くれ。そして、そのハッカイとは別に女1人と子供1人をくれ」そう要求しました。

 

そして、また「ハッカイ」は、最初の1個以外は絶対に作ってはいけないとも言い、これで話は終わったと口を閉じたそうです。

 

普通、そんな話を実行できる人などいないでしょう。本当はどこの誰かも分からない胡散臭い人間の話、しかも死んだ子供の指だとかハラワタの血だとか・・・。
いくら生活が苦しくても、自分の子供を殺すのでさえ耐えきれない辛さであるのに、さらに殺した子供にそんな仕打ちができるわけがありません。

 

「だがな、ここの先祖の人たちは、それを飲んだ・・・やったんだよ」

 

「マジかよ」

 

「ああ、どういった動機、心境だったのかは全部はわからん。それだけものすごい迫害だったんだろう。子供を犠牲にしても、武器を手にしないといけないほどに」

 

そして、Tが欲しいと言ったハッカイが出来上がった。Tはそれがどういうものか、効果はどうなのかを要望した子供と女性を使って説明しました。その子供と女性の名前は控えます。犠牲になった8人の子供の名前もここでは伏せますが、学が私に「聞いたことあるやろ?」と言ったとおり、それらはすべて私の知っている名前でした。

その効果は、それはひどいものでした。ひどいというよりTが武器と呼んだほどですから、絶大な効果だったと言ってもいいでしょう。その箱は、女子供をとり殺す、それも、苦しみ抜くように・・・・。

なぜか徐々に内臓が千切れてしまう。
触れるどころか周囲にいるだけでそうなりました。

そして、その効果を目の当たりにした住民は、それこそ憑かれたように箱を作り始めました。住民がまず作ったのは、チッポウでした。

 

「俺が祓ったやつだ。7人の子供の・・・箱」

 

学は苦しそうに言いました。

 

「わずか2週間足らずの間に、15人の子供と女1人が殺されたんだよ」

 

「ひどい話だ。今の時代じゃないとはいえ・・・」

 

荒唐無稽ともいえる話でしたが、そこにいた全員が学の話を信じていたと思います。誰もふざけてみたり、怒って学に突っかかることはありませんでした。

そして、住民たちは、できた箱を地域の庄屋に上納しました。
住民からの気持ち、誠意の印ということで差し出すと、庄屋も疑いもせず喜んで受け取りました。


しかし、その庄屋ではそこから地獄の苦しみが待っていました。
女子供は、みな血反吐を吐いて、苦しみ抜いて死んでしまいました。
庄屋のその状態を見て、地域の人々はパニックになりました。

部落の人々は、△▼のお偉方達、△▼以外の周囲地域にも箱の存在を伝え、「今後一切、我々には関わらないこと、放っておいて欲しい」という要求をしました。
今までの恨みを許すことはできないが、放っておいてくれれば何もしないと言ったのです。


もしこのことについて仕返しをすれば、再び呪いをかけるといい、庄屋に送った箱は直ちに住民に返すよう指示しました。

 

そして、なぜこの部落を放置することになったのか、その理由は広めてはならない。ただ、関わらないことだけを徹底するように言い、箱は全部で7つあり、いつでも呪いを実行できることを伝えました。実際に読み書きもできなかったであろう当時の住民にこれだけのことが思いついたのかは疑問ですが、Tが入れ知恵したのでしょうか。

△▼含め、周りの地域は全てこの条件を了承し、周辺地域とこの部落の関わりは一切なくなりました。

 

「だが、この部落の人たちは、それでも箱を作り続けたんだ。当のTはその後どこかへ行ってしまったらしいが、管理の仕方は残していったそうだ」

 

1. 女子供を絶対に近づけないこと。
2. 箱は必ず暗く湿った場所に安置すること。

 

そして、箱の中身は年を経るごとに力が弱まっていき、もし必要なくなったり手に余ることになったら、○を祭る神社に処理を頼むように。
それは、なぜか寺ではダメで、○を祭る神社でなくてはならないそうでした。

そして、住民たちは13年に渡って箱作りを続けました。ただ、最初の箱以外は、どうしても間引きをしなければならない時にだけ間引いた子の体を作っておいた箱に入れたということらしく、子供たちを殺す時に△▼を怨め、△▼を憎め、というようなことを言いながら殺したそうです。

 

たぶん、罪悪感から少しでも逃れたいからでしょう。箱を作り続けて13年目、16個の箱が出来上がっていました。イッポウ6つ、ニホウ2つ、ゴホウ5つ、チッポウ3つ・・・単純に計算しても、56人の子供が犠牲になりました。
作成に失敗した箱もあったというから、もっと多かったかも知れません。

 

その13年目に事件が起きました。


その箱は、監視を立て、すべてが1か所に保管されていました。ある日、11歳になる男の子が監視の目を盗んでその箱を盗んで持ち出してしまった。
最悪なことにその箱はチッポウで、箱の強さはイッポウ<ニホウ・・・というように数が増えれば強くなるため、できあがって間もないチッポウの威力はどの程度だか想像もつきません。

そこで、聡美がその箱を見つけた時のことを思い出しました。あの箱の外観は、「仕掛けのある箱かな」と思うほど、外観的に目を引き、子供の興味も引きそうなものでした。

その日のうちに、その子を含め、家じゅうの子供と女性が死んでしまいました。

この事件をきっかけに、住民たちもこの箱の恐怖を、この武器が油断すれば自分たちにも牙をむくということを改めて痛感したのです。そして、一度牙をむけば止める間もなく望まぬ死人が出てしまう。

確実に・・・。

住民たちは、目が覚めたかのように「箱を処分しよう」と決め、代表者5人が学の家にやってきたのです。正確には、話したのは学の先祖ですが・・・。
しかし、学の先祖はその箱の力が強すぎてすぐには処分できないことが分かると、箱の「薄め方」を提案しました。

そして、決して約束の年数を経ない箱を持ち込まないように、そう伊藤さんが話した通りの決まりごとを話し合ったのです。
神社側からはけっして部落に接触しない、前の管理者が死んだら、必ず報告をすることなど。

 

「箱ごとの年数は、おそらく俺の先祖が大方の目安で決めたんだと思う。箱の強さによって110年とかチッポウなら140年とか」

 

そして、箱の管理から逃げ出せないようにルールを決めました。
各班に分かれて、その班の代表者を決め、その代表者がそれぞれの班に箱を届けました。
そして、どの班がどの箱を持っているのか、学の神社に伝えて、管理簿が作られました。

また、班以外の人々と自分の班の箱について話すことは禁じられました。
なぜ全体で管理することにしなかったのか、想像するしかないが、学のおじいさんは「全体で責任を背負って責任を軽く感じさせるより、少ない人数で負担を大きくした方が、逃げられないと思ったのではないかとのことでした。

そして、約束の年数を保管した後で、箱は神社に持ち込まれ、処理されました。

 

「だけど、その年数っていうのがまた曖昧で、じいちゃんの運が悪いのかその箱の持ち込まれた年数がうちのじいちゃんとひいじいちゃんの代にもろに重なってて、それが、その年数っていうのが法則もなにもようわからんのよ。だから、他の箱はじいちゃんの代で全部処分したんだが、チッポウはやたら長くて、俺の代なんだよなぁ」

 

うんざりしたように学が言いました。

 

「まだ先だと思って何もやってなかったけど、真面目にせにゃ・・・」

 

そう言って、大きなため息をつきました。

これで、コトリバコに関することで、学が知っていることは全部でした。
学によると学が祓ったチッポウは、最初に作られたチッポウだったそうです。

(文中の名前は、すべて仮名です。)