おなじみの病院に到着すると、その頃にはもう意識があるんだかないんだかという感じで、呼びかけられてもちゃんと聞こえるのに答える声は数秒遅れるという状態。
救急車のカートから簡易ベッドに寝かされ、その間は救急隊のしょうゆ顔隊員が病院側に色々とお話してくれ、「じゃあ、救急隊は帰りますね」と横を向いて寝ている私の腕をぽんぽんと叩いて去って行きました。
「ありがとうございました」
蚊のなくような声でお礼を言って、早くこの痛みをなんとかしてくれないかなぁ~と涙がこぼれそうなわたしでしたが、すぐその後で登場した医師とのやり取りで、人生最大の失敗をすることになります。
いつの間にか白衣姿の小柄な男性が目の前に立っていました。
朦朧としていたので、記憶は断片的です。
「血液検査をこれからしますけど、CTも撮った方がいいと思います」
男性医師がそう言ったので、私は今までの経緯を考えると、今この時にCT撮影は不要なのではないかと思い、「あの・・・それは前に撮って・・・」そう言いかけると、男性医師は「でも、それはずいぶん前のことだしぃ!」といきなり大きな声を上げたのです。
『・・・・なんで怒ってるの?』
そんな強い口調で言われたので、朦朧としていながらも、ちょっとびっくりしてその医師の顔を見ました。
突然ですが、HERO観てますか?
観てないとちょっと臨場感湧かないと思うのですが、数秒前まで単なる白衣の男性医師だったその人は、今目の前で濱田岳演じる宇野検事そっくりの印象を私に与えたのです。
ぷん!とした時の感じがそっくり。
ということで、彼はここから「宇野検事」と私の心の中で呼ばれることになりました。
私は別に何が何でも嫌だというわけではなく、ここまでの経緯を考えてのことだったので、それをちゃんと説明したかったのですが、いきなり怒気を含んだ言い方をされたので、前に撮って・・・から先が出てきませんでした。
宇野検事は続けます。
「前とは時間が経ってるから、前とは違う症状が出ている可能性だってあるんですよ。例えば血管が破れているとか」
『いやいやいやいや、それはないと思いますけど』
言葉には出せずとも、心で抵抗を続ける私。
何も言わない私に、宇野検事はなおも言います。
「何がそんなに嫌なんですか?被爆ですか?」
『被爆???』
外資系科学企業に10数年勤めた私が、レントゲンやCTの被爆くらいへとも思わないに決まってるじゃん!
・・・・とはいえ、それはこの医師の知らないことだし、福島以来、最近はそういって嫌がる人もいるのかもと、その流れに乗ってみることにしました。
「・・・はい」
(`Д´) 「いるんですよね、最近そういう人!」
宇野検事はそういうと、どこかへ歩いて行ってしまいました。
何をしていたかもう覚えていないけれど、「私はベテラン」とマジックで額に書いていそうなベテラン看護師が私の目の前でしゃがんで何か作業をしていたのですが、私の方を見上げながら「いつも外科の先生がいるとは限らないんですからねー。今診ていただいているのは内科の先生ですから」ということを2回も繰り返して言ったのです。
「・・・・はい」
言われるたびに返事をしてみたものの、私にはこの看護師がなぜそんなことを2回も繰り返して言うのか理解できませんでした。
痛みで朦朧とする頭の中で必死に考えると『だから言うことを聞けってことか!』と、やっとその意味が分かったのです。
そうは言われても、自分が納得できない状況で言われるがままにCT撮影など嫌。
初めてであれば仕方ないけど、今までの状況を考えると、とりあえず発作を治めてもらって、手術をどうするかとか、そんなことを話したいなと思っていました。
ここらへんは断片なのでよく分からないのですが、気が付くと宇野検事が戻ってきて、「エコーで診てみます」とダダっ子みたいな言い方でエコーの機械?を持ってきて簡易ベッドの横に座り、「ちゃんと映るか分からないですけどね!」とぷりぷりしながらも、一所懸命に器具を動かしてエコーで診てくれました。
『ありがとう、宇野検事(医者だけど)』
なんでそこまで怒ってるのかは理解できなかったけど、そういう患者が目の前にいても、最前を尽くしてくれているのはわかりました。
でも、できないものはできません。
結局、宇野検事は諦めたようで、その後私は痛み止めを2回ほど打ってもらってから別の場所に連れて行かれ、しばらくここで寝ていてくださいと看護師に言われました。