あじゃみんのブログ

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首 ~腹黒い男たちの物語~

戦国時代といえば、のべつ幕なしに戦が起こっていたわけではないものの、まだまだ天下は統一されたとはいえず、日本全国色々な大名がそれぞれの領地を治め、力ある武士は、あわよくば自分が天下統一を果たせるのではないかとそれぞれに思っていた時代。

ただ、室町幕府の力が弱ってきたため、本来は守護大名など以前から力のある者が収めていた国を下克上によって奪って権力を得ることもあった。

その一例が猿と呼ばれた豊臣秀吉である。

秀吉がまだ織田信長の一臣下であった頃、信長の勢いは天下に轟き、まだまだ強い大名もいたが、もうすぐ信長は天下を治めるのではないかと思われていた。

だが、ある時側近であった明智光秀に謀反を起こされ、本能寺でその生涯を閉じることとなった。明智光秀がなぜ謀反を起こして主君を倒したかについては、本当に所説あり、実際のところ真実はわからない。ハゲだのなんだのと他の家臣の前で罵倒され、屈辱に耐えかねて・・・というのが有力な定説であったものの、近年では「そんなことじゃないっしょ」って感じで「光秀、騙された説」が結構台頭してきている。

”誰か”の計略にまんまと乗せられ、我が天下人となると信長を打って権力の座についたはずがあっという間に秀吉に滅ぼされてしまった、三日天下という言葉の元になった人物でもある。

戦がきれいごとなわけない

これまで描かれてきた時代劇は、家臣が主君に忠誠を誓い、主君のためなら命を落としても構わない的な「武士って格好いい!」というタイプの映画やドラマばかりで、何百人、何千人とが戦ったのに死体はどこに?っていう綺麗な流れしかなかった。

主流はあくまで家臣と君主なので、殺された死体がいつまでもゴロゴロと転がっているわけにもいかないのだ。

しかし、実際はそんなことはなかったはず。

そんなに大量の死骸を1日や2日で片付けられるわけでもなく、ましてや殿様が死んだ地域だと新しい殿様が来るまで何をどうしていいかなんてわからなかったから、きっと長期間その死体は放置されていることもあったと思う。

実際は農民たちが駆り出されて死体を収容し、武将たちが討ち取った首を洗って並べ、首塚を作って祀ったわけだが、そんな首塚から関東に飛んでいったのが平将門というわけ。

首を取ることへの執着

この時代、自分の手柄を示すには首実験(くびじっけん)といって、家臣は倒した相手方のえらい人の首を落として証拠として持参し、それを見た大将が「これはだれだれの首か」と判断してのちの論功行賞に使われた。また、祟られてはいけないので、それらの首を並べて祈祷のようなことも行っていたそうだ。

論功行賞というのは、上げた手柄の度合いによってご褒美の中身が変わるというか、こういう風にしてくれたからこんなことをお返しにやるよってことで、敵の身分の高い人物の首を持ってきたものは、それなりのご褒美が待っていたというわけ。

だから誰の「首」を取るかも非常に重要だった。

しかし、織田信長はその首を足蹴にしたこともあったようで、なんともすごい性格だったんだろうなと怖くなってしまった。

この映画は、敵の「首」を取り、果ては天下を取って国のトップに就きたい大名たちが腹を探り合い、どうやって敵の首を取り、手柄を我がものにするかを描いた作品だ。

史実・・・といっても、上記のように明智光秀がなぜ謀反を起こしたのかはっきりと証明されたわけでもないし、織田信長の遺体は見つからなかったので、実際にそこで切腹して果てたのか、それとも誰かに討ち取られたのかなどまったくわかっていない。

墓はあるが中はからっぽだ。

明智は本能寺の変を起こした時、きっと「なんとしてでも信長の首を探せ」と叫んだかもしれないね。でも、火を放った時点で結果考えろよとも思う。

信長はメインキャラだがストーリーは信長の人生ではない

あまりにもいっちゃってるキャラクターなので、予告を観ても「織田信長」がメインのストーリーと思われがちだが、実際は信長が天下を取るか取らないかという時期に起きたその家臣の武士やその周辺の人々を描いた作品だ。

「俺のために死ぬ気で働けば、跡目はお前にやるかもよー」ってな感じで家臣たちに発破をかける信長だが、実際には自分の子供に自分の地位を譲ろうとしていた。江戸幕府では長男が将軍の座を継ぐということになったが、この時代はまだそんな決まりはなく、家督を継ぐのは長男だが、天下人になるのは「それなりの功績を遺した者」と信じられてきたので、その信長が当の次男宛に書いた、信長の内心を吐露した手紙を読んだ光秀が「これまでさんざん殴られてきたのは、天下を統一するため、自分が次に天下を取るためだったのに」これでは殴られ損だと光秀は憤り、親方様の裏切りと思わせようとした秀吉にまんまと乗せられて信長を打つことにする・・・という流れの中で、あの大名この大名とそれぞれの「俺がネクスト天下人よ」という腹黒さ満開の話。

その大名たちが「俺があいつの首を取る!」とばかりにとにかく敵の大将の首を取ることに執着する。

驚いたシーンふたつ

ネタばれになるので、詳細は語れないが、この映画を観た時に「ゲッ!マジッ?!」とびっくりしたシーンがふたつあった。

ひとつは、本能寺の変で織田信長が最後を迎えるのだが、その「最後」がたけし天才かって感じのアイデアで、思わず「えっ?!」と映画を観ながら声をあげてしまった。

でも、ここは硬派な感じを期待していたというか想像していた人には「えー」な場面かも知れない。

もうひとつは、最後、つまりラストシーン。

「ここで締めるのか!」ってちょっと笑ってしまった。

でも、あそこで切るからいいのかなというか、「首」というタイトルにぴったりなのかも知れない。

合戦シーンについては、CGじゃできない総勢何人だかわからないあの人数を使ってリアルな合戦を展開したけれど、さすがに合戦シーンで奇をてらうことなどないので、規模については圧巻だったがあまり目新しいわけでもなく、印象に残るというほどではなかった。

好き嫌い・評価が分かれる映画

これだけの芸達者たちを揃えて、アドリブあり、笑いありの下克上・戦国時代の武士たちを描いた映画が面白くないわけがないけれど、正統派とはかけ離れた展開でもあるし、そのテイストは好き・嫌いがはっきり分かれると思う。

また、映画としての出来という部分では、正直どうだかちょっと分からない。

私個人からしたら、かなり面白かったし、IMAXで2600円払ったけど惜しいとはまったく思わずに最後まで楽しめた。また変にねねみたいなストーリー壊しそうなキャラをださなかったのもいいと思う。男の世界に特化したため、流れがぶった切られずに面白く観られましたしね。

ただ、もう1回観るか・・・と聞かれたら、劇場では1回でいいかなという感じかな。

万民に勧める映画でもないけど、歴史好きならある意味面白く裏切ってくれるので、ぜひ観にって欲しい作品でした!

 

首(2023)
監督・脚本・編集:北野武

【出演】
羽柴秀吉:ビートたけし
織田信長:加瀬亮
明智光秀:西島秀俊
羽柴秀長:大森南朋
黒田官兵衛:浅野忠信
荒木村重:遠藤憲一
徳川家康:小林薫
千利休:岸部一徳
清水宗治:荒川良々
曽呂利新左衛門:木村祐一
安国寺 恵瓊:六平直政
弥助:副島淳 ほか多数

 

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