あじゃみんのブログ

美味しいものや、経営する雑貨店のこと、女性の心身の健康について、その他時事ネタなど好き勝手に書いているブログです。

箱根の宿

秋の長雨も小休止ですが、なんだか今日もパッとしない天気です。

まだ暑い時にこまりんさんからいつもの怖い話を送ってくれていたのですが、今回は結構な長文だったので、なかなかリライトできず、今になってしまいました。

箱根のある高級旅館でのお話です。
私は、旅館の名前も読みましたが、さすがに書けないので、出来事のみ掲載です。

夏は終わったようですが、夏の余韻をお楽しみください。

*****

今年の夏は、いつにも増して忙しく、お盆休み返上で仕事をしていました。

それでも、せっかくの夏で、家族恒例の夏の温泉旅行はしたい!と話していたのですが、箱根の希望の宿は露天風呂付の部屋が満室で、予約ができません。
仕方ないので、電話をして「空が出たら教えてください」とお願いしていたのです。

家族とは、父と母、そして海外から帰国していた兄と私の4人で、箱根のある温泉旅館がいつもの宿でした。
その宿の露天風呂付の客室は、とても人気があり、いつも1部屋か2部屋くらいしか空がないんです。

お盆も近いし、さすがに無理かなと思っていました。

そんな諦めムードで日が過ぎていたある日、急に空が出たという連絡が宿からありました。
キャンセル料が発生する3日前の夜のことでした。

もうだめかと思っていたので、家族で大喜びして早速支度をして実家に集合しました。

「今年の夏はラッキー♪」

単純に喜んでいた私でしたが、横でお茶を飲んでいた兄が「お前は能天気だよなぁ」と呆れたように言いました。

「なによ」

そういってにらむと、「人生にたまたまとか、ラッキーなんてない。な~~んか理由があるんだろ。こんな時期に希望の部屋が空くってことは、つまりそういうこと!」と言ったのです。

「そんなこと・・・行ってみないと分からないでしょ?」

無視して支度を続ける私に母が「ママは、最上階の角部屋だと思うわ。で、いつもの幽霊が出るのよ」となんだか確信あり!という顔で言いました。

「やめてよ、ホントに」

うんざりしましたが、父までが「だけど、料理は美味しいし、出るもんは見ないようにすればいいわけだし、何とかなるだろ~」とまるで「出る」ことが前提で話していました。

「ふー」

まぁ、私たち家族が行くところ、ほとんどすべて幽霊ありですからね、仕方ないです。

私たちが行った宿は、以前お話しした骸骨が露天風呂に出た旅館の川を挟んで正面に建っています。
駅が近いので、老齢の両親のために、最近はその宿に泊まることが多くなっていました。

深夜でもいつでも、気兼ねなく大好きなお風呂に入れるように、露天風呂付のお部屋予約が旅の条件です。

その宿は、大浴場も2か所にあり、ものすごい広さです。
部屋数も多い宿なので、このくらいの規模の大浴場が必要なのかなと思います。

箱根まですんなり到着し、チェックインを済ませると、案内の方が来るまでしばらくロビーで待ちました。

ほどなく、着物をきた女性がやってきて、私たちを部屋に案内してくれました。

「・・・・・・・・・・・」

「ほら!私の予想通り!」

部屋の前で絶句している私とは正反対の、母の自信にあふれた声が聞こえてきました。

そうです。

部屋は、昔幽霊が訪ねてきた「最上階の角部屋」だったのです。

案内の女性がいぶかしそうな顔をしているので、まさか幽霊部屋だなどとは言えないから、とりあえず黙って部屋に入りました。

夕食前のひと時は、大浴場に行ったり、足湯に行ったりとのんびりして過ごしました。

豪華な夕食を済ませ、もうお腹いっぱい!という状態でゴロゴロと横になっていると、外はすっかり暗くなっていきました。

「こうなると、部屋の露天風呂はなぁ~」

兄が露天風呂に通じるドアのある方を見ながらいいました。

「だけど、呼ばれてるんなら、どこに行ってもダメだと思うわよ」

のんびりと母が言いました。

「どこに行っても出るもんは出るんだよ、1回見ちゃえばこんなものかと思うだろ」

父までがそんなことを言います。

『そんなに幽霊見たいのか!』

両親や兄と違って、私はいまだに霊に慣れません。
というか、慣れたくもないんです。

「この部屋には入れないようにしてあるけど、露天風呂は川沿いの外だからなぁ~。さすがにあっちまでは俺の力では無理だ」

兄が続けました。

「だけど、(幽霊)と一緒に風呂に入れば、こっちは寒気がして温まらないからのぼせなくていいんじゃないか?」

父がそんなことを言い出しました。

「もう、やめてよ。ここの露天は勇気がいるから、大浴場にまた行ってくる。満室なんだから、誰かいるだろうしね」

そう言って準備をしていると、

「甘い!」

「あんた、懲りない子ね」

「大浴場たって居るもんは居るさ~」

と3人から言葉を浴びせられました。

「ふん!じゃ、行ってくるから!」

3人の忠告?を無視して、1人で部屋を出ました。

そして、この忠告を聞かなかったことを後悔することになったのです。

女性用の大浴場は、泊まっている部屋と同じ階にあるため、廊下をずっと歩いて行くだけで到着です。

「あれ?」

室内履きのスリッパを棚に入れた時、まだそんなに遅い時間でもないのに他に履物がまったくありませんでした。

お風呂が7つもある大浴場にたったの1人きり。

『まさかぁ』

でも、やっぱり誰のスリッパもありません。

とはいえ、今日は満室ですから、夕食後のこの時間はだいたいいつも人がたくさん入るはずなので、たまたまだと自分に言い聞かせて中に入りました。

昼間入った時は、髪を洗わなかったので、まずは洗髪。

だだっ広い風呂場にたった1人で目をつぶって髪を洗っているのは、相当怖かったのですが、ほどなく数人の女性の声が聞こえてきて、『良かった。人が来たんだ』と一安心。

体も洗って、どのお風呂に入ろうかなと考えていると、奥のお風呂からさっき聞こえた女性たちの声がしているのがわかりました。

『あっちに入っていったんだ』

1人だから、自分もそちらにとは思ったのですが、露天風呂に入りたかったし、何個もあるお風呂なのに人が入っている方に行くのもどうかと遠慮して、露天風呂に行きました。
そこは、空がくっきりと見える開放感のある露天で、部屋についているお風呂よりこっちの方が気持ちいいわ!とのんびりと湯につかっていました。

露天とその他の浴槽は曇りガラスで仕切られていて、中の状態はぼんやりと人影が見える程度です。

ふと「そういえば、さっきの人達・・・奥のお風呂にまだ居てくれるのかな?もう洗い場に移動しちゃった?」と、1人ということを思い出して、そんなことを考えました。

ガラス越しに奥のお風呂の方を見ると、3人の影が見えました。

「良かった。でもそろそろ出るかな、ちょっと熱いし」

とはいえ、あまりの気持ち良さにリピートしようと、脱衣場にあるウォーターサーバーでお水を飲んでから再度入ろうと決め、一旦脱衣場に向かいました。

「はぁ~」

冷たく冷えた水を飲んで一息つき、少し休んでから、もう一回と入口に向かいました。

「・・・・・・・・・・・?」

・・・・ないんです。

何がって、私以外の荷物が。

お風呂には確かに3人の女性が入っているのに、探しても浴衣一枚ありません。

「えっ・・・・・」

たくさんの籠がありますが、どれも棚の中で裏返しにされていて、探しても誰ひとり脱いだ形跡がないのです。

「まさか、もう出た?」

さっき確認したはず・・・と、出入り口のガラスの方に顔を向けると、女性が3人横に並んでこちらを見ていました。

じっと私を見ています。

『いっ、いつの間に?!』

よく見ると、その顔と体から、大量の血がダラダラと流れ落ちていました。

「?!」

『見えるんだ、私たちのこと』

固まって動けずにいる私の耳に、小さく声が聞こえました。

「・・・・・・・・・・きゃぁ!」

あまりの恐怖にタオルを体に巻いたまま、籠をそのまま抱えてスリッパも履かずに部屋まで逃げ帰りました。

「・・・出た!出た!」

やっとの思いで今の出来事を話すと、家族は全員大笑い。

「誰も入ってないのに、入るか普通?」

「ただでさえ見える体質なんだから、もうちょっと自覚しないと」

笑いながら言う家族にむかつきつつも、さっきの忠告を聞いて、1人だと分かった時点で帰らなかった自分を呪いました。

それからしばらく時間を置いて、持ってきてしまった籠を返そうと大浴場に向かいました。

その時は、外まで音が聞こえるくらいたくさんの人が入っているようで、以前来た時に見た光景と同じ雰囲気でした。

脱衣場には、掃除をしたり、籠を整理する係の女性がいたので、籠を返して謝ると「ここに泊った帰りにさ~。車で事故起こしちまってね。レディースプランで来た女性3人。即死だったんだって」。

私が何も言っていないのに、いきなりそういわれてびっくり。

「見えたんでしょ、3人」

係の女性が真顔で言いました。

「・・・・はい」

仕方ないので素直にうなずくと、「いるだろ、今も」そういうと風呂場の方を向きました。

確かに、私にはまだあの3人が楽しそうにお風呂に入っているのがわかりました。

事故かぁ~。

廊下を歩きながら、楽しい旅行の最後にいきなり死んでしまったから、まだ旅の思い出の中でしばられているんだろうなぁ~。
早く向こうに行かれればいいけど。

そんなことを考えていました。

まぁ、原因も分かったし、これで一件落着!・・・・とはならないのが我が家の旅行。

翌日のチェックアウトの時、大浴場のおばさんのおかげで色々助かりましたとフロントに伝えたところ「おばさん?大浴場の係は夕方5時までで、あとは人は置いていませんが」と言うのです。

「えっ・・・あの、おばさんというか、おばあさんですよ、6階の大浴場にいる」

「年配の女性が先月まで勤めていたんですけど、辞めてしまったので、後任を募集してるんですよ」

そう言うのです。

すると、横でやはりチェックアウトしていた男性がこちらを向いて、「あのばあさん、先月、脳こうそくで風呂で倒れたんだろ?それでどうした?」と聞いたのです。
どうやら、かなりの常連さんのようでした。

フロント係の男性は、一瞬いやな顔をしましたが、渋々「そのまま亡くなられまして・・・」というと、そのおじさんはハハハと笑って、「なんだ、亡くなってもまだ仕事してんのか。さすがだなぁ~、この宿は大丈夫だな」と言いました。

何が大丈夫なんだかわかりませんが、私もつられてちょっと笑ってしまいました。

しかし、風呂場にいた女性3人も脱衣場のおばあさんも全部幽霊!!

そうそう。
お部屋の露天風呂には、 早朝明るくなってから入ったのですが、ゆらゆらと揺れる水面にずっと黒い影が動いていました。

「いやぁ、今回も良い湯だったなぁ」

兄がのんびりと言いました。

「そうねぇ。箱根で出ないところはないから、程度の問題だしね」

母も楽しそうに答えました。

「露天風呂の黒い影・・・あれだけいるとホタルみたいだなぁ」

父までがそんなことを言いました。

「出ないところに行きたい」

無駄とわかっていても、それが私の本心ですよ!

帰宅してから家族と話しをしたところ、女性用と男性用は朝交換になるのですが、「あー、いたいた3人だろ?血がダラダラ流れてたなぁ」と兄が言い、「浴室係のばあさん、あれも幽霊だろ?足なかったぞ」と父が言いました。

「他にも、露天に2体・・・すごい年寄りの幽霊と、洗い場隣の内湯にも入ってたぞ」

兄がお茶をすすりながら言いました。

あの世とこの世の共同浴場・・・・最後に父がそうつぶやきました。