これは、随分と前、両親もまだとても元気だった頃の話です。
うちは、両親と兄、そして私の4人家族なのですが、家族でよく旅行する家でした。
ある年の家族旅行は、小豆島に行くことになりました。
残念ながら、私は資格試験前だったので、追い込みのためにお留守番となりました。
これは、帰宅した家族に聞いた話です。
小豆島へは、電車とフェリーで行きました。
両親と兄は、フェリーに乗るために時間通りに「乗り場」に到着しました。
すでに乗船の人の列ができていて、その列の後ろに並んだとのことですが、家族の乗船の番がきても母がなかなか乗船しないで乗り場で立ち止まっていました。
兄が歩き出しながら、
「どうしたの?なんで乗らないの?」
と母に声をかけると
「あの女の人が先でしょ、何で先に乗ってしまうのよ!」
と、怒っていました。
言われた方に目を向けてもフェリー乗り場にはもう誰もいません。
「誰もいないけど、誰の事を言ってるの?女の人って、一人旅みたいな人?」
「そうよ!多分一人旅かしらね。先に乗ってくれたから、私たちも乗りましょう。」
しかし、兄にも父にも「一人旅の女性」なんてどこにも見えていません。
母にきつく言われたからか、到着して下船するときに、兄は一人旅の女性を探しましたが、ほとんど団体客と地元の人と思われる人達で、一人で乗っている人はいませんでした。
母が船内で話してくれたその女性の特徴に当てはまる人もいなかったのです。
ところが、小豆島観光中にも母には時折、その「一人旅の女性」が現れていたようでした。
母は能天気に
「まぁ、同じ個人のツアーかしらね~?写真でも撮ってあげおようかしら?」
と言ってはしゃいでいたそうです。
さすがに、兄も父もおかしい!!と気が付きました。
だって、島内の観光中、ずっと母の視界に居るのですから。
夕方、観光を済ませてホテルに戻った時でした。
「あら、さっきの女の人、先に戻ったのね。同じホテルなんだわ~」
と母が笑顔で言っていました。
兄と父にはもちろん、そんな女の人は見えていません。
兄はホテルの人に話があるからとロビーに残り、父と母を先に部屋に行かせました。
そしてお祓いのできる人が近くに居るかどうか尋ねました。
ホテルの人は、驚いたようでしたが、話を聞いてくれました。
「そういう事でしたら、その方は、じきにお引き取り頂けるので大丈夫でしょう」
とホテルの人が言ったので、兄はかなり驚いたそうです。
ホテルの方は、にっこり笑って、「年間に何組かのお客様が、同じようなことをおっしゃっておりまして。なんでもフェリー乗り場からずっと一緒だったとか、観光タクシーにいつの間にか同乗していたとか、帰宅して写真を見直してみたら、全ての写真の背景に映り込んでいたとか。こちらは神棚をお祀りしておりますので、大丈夫ですので、ご安心下さい。」
とのことでした。
旅行の間中見えているというのは、いくら霊能一家といえども、気分が良いものではありませんでした。
しかし、せっかくの旅行です。
何も気づいていない母には、何も言わないことにしました。
母は「お風呂で会ったのよぉ」とか、翌朝のお土産売り場でも会ったとか、相変わらずの能天気ぶりを発揮していました。
その後の観光も、母の視界に時折入っていたようですが、兄も父のそれほど心配することなく旅を終えました。
帰りのフェリーもその女性と一緒だったようです。
その女性は、母に「失恋してしまって、悲しい。どうしていいのかわからない」と言ったそうです。
やっぱり、女性が小豆島に1人旅なんて、そういうことがあったのね・・・と、同じ女性として共感した母は、なんとかこの女性を励ましてあげたいと、
「次、頑張ればいいじゃない!次こそ、頑張って!ねっ!」
とにこやかに言ったそうです。
「・・・・・・あ」
やっとというか、ついにというか、母が女性を励ました時、ふと視線を下に向けたら、その女性には足がなかったことに気づいたそうです。
まったく呆れたものですが、それにしても家族の中で一番霊感の強い兄や父にその女性が見えていなかったのが不思議で仕方ありません。