あじゃみんのブログ

美味しいものや、経営する雑貨店のこと、女性の心身の健康について、その他時事ネタなど好き勝手に書いているブログです。

罪の声

水曜日はレディース・デー!

ということで、おばさんでも一応レディーなので(?)、昨日は映画に行ってきました。あまり観たいものがない中、興味を持てたのが「罪の声」です。

グリコ・森永事件

警察庁広域重要指定114号事件、通称「グリコ・森永事件」。

1984年3月18日。

江崎グリコの社長、江崎勝久氏を自宅から誘拐するという事件から始まり、グリコだけではなく森永や大丸食品など、食品関連の企業が次々に標的にされ、実際に毒の入った菓子が店の棚に置かれるなど、日本中を巻き込んだ劇場型犯罪。詳しくは、こちらで。

この映画は、このグリコ・森永事件をモチーフにした小説を映画化したものです。

日本中を引っ掻き回して大騒ぎさせた事件にも関わらず、警察は犯人を取り逃がし、関連事件すべてが時効となった。億単位、数千万単位の金銭が要求されましたが、実際に犯人に渡ることはありませんでした(ただし、犯人はグリコから6億もらったということを別の事件の脅迫状に書いていますが、グリコはこれを認めていません)。

原作の著者である塩田武士氏は、この物語の着想を大学生の頃に思いつき、新聞記者として書く力を上げながら小説家となり、綿密な取材の末、15年の歳月をかけて小説「罪の声」を完成させました。まったくの余談ですが、江崎社長が誘拐犯によって監禁されていた場所についての面白いお話は、こちらの「辻占」という話を聞いてください(Amazon Primeの映像になります)。

使われた子供の声

私もよく覚えていますが、ニュース番組やワイドショーは、連日この関連する複数の事件ばかり報道していました。実際に青酸化合物が入った菓子などが発見されたのですから、万が一死人が出てもおかしくない事件でしから、当然といえば当然ですね。メディアに警察をおちょくるような挑戦状を送りつけたりと、やりたい放題でした。この事件で注目されたのは、犯人が脅迫に使用した「声」に子供の声が使われていたことでした。脅迫で指定したお金を持ってくる場所を指定する電話では、録音された子供や女性の声が使われていました。たどたどしい声で指示が読み上げられるのですが、いったい誰がこんなことをしたんだとその怒りもあり、大きく取り上げられました。

子供にしたら、大人に言われるままに録音したのでしょうし、あとから日本中を震撼させた事件で使われた声が自分の声だったと知ったら、いったいどんな思いを抱くでしょうか。原作者の塩田氏は、この犯罪に声を使われた「子供たちの人生」に着目し、その視点で小説を構成していきました。

新聞記者とテーラー

(※映画で描かれるグリコ・森永事件は、「ギンガ・萬堂」というふたつの会社に置き換えられています。)大阪・大日新聞の記者、阿久津英士(小栗旬)は、昭和を揺るがした「ギンガ・萬堂事件」という未解決事件を再び掘り起こすというプロジェクトの応援を命じられる。あることがきっかけで社会部を出て、今は文化部でエンタメ記事などを書いていた阿久津は、当初はまったく乗り気がしなかったが、事件を調べるうち、徐々にこの事件に引き込まれていく。一方、京都市内でテーラーを営む曽根俊也(星野源)は、父親の遺品の中から英語で書かれた手帳と1984と書かれたカセットテープを見つける。父が英語に強かったという記憶もないし、筆跡も違うその手帳には、古くオランダで起こった事件などが詳細に記入されていた。また、そこには「GINGA」「MANDO」などの文字もあり、31年前に日本で起きたギンガ・萬堂事件に関連したもののようだった。テープに興味を持った俊也は、取ってあった古いカセットデッキを引っ張りだし、テープをかけた。そこには、たどたどしい子供の声で、道順を指定する内容の吹き込みがあった。あのギンガ・萬堂事件で使われた子供の声だ。

俊也は愕然とする。

なぜなら、そこから聞こえてきた声は、「自分」の声だったから・・・。

子供の人生という視点

事件を担当した滋賀県警本部長の自殺という悲劇が起き、その後犯人側から「くいもんの 会社 いびるの もお やめや」という事件を幕引きを宣言する内容の終息宣言が送られてきたこともあり、警察の捜査は続けられていたでしょうが、世間はどんどんその事件を「過去のこと」としていきました。原作者の塩田氏は、事件が時効を迎えてもなお、事件に「声」を使われた子供たちは、どんな人生を歩んだのだろうと考えたようです。

確かに、事件のことなど知る由もなく、何か言いくるめられて吹き込まされたとしても、月日が経つにつれ事件がわかるようになった時、事件の声を聴いて、そのことと結びついた時、自分が日本中を騒がせた犯罪に加担したと知ったら、その子はどんな思いで人生を歩んだのしょうか。この物語は、その声によって人生を壊された人々に視点を当て、大人の身勝手で苦しめられた子供たちの人生を描いています。

実際の事件との相違

グリコ・森永事件は、関連するすべての事件の時効が成立してしまった、他に類を見ない事件です。その事件をモチーフとして書いたこの作品は、史実とどう違うのでしょうか。この映画(原作)は、未解決部分の犯人やその動機などはフィクションです。

しかし、事件の起こった日付や場所・脅迫状の内容・メディア報道の仕方などは実施の事件を忠実に再現しているそうです。

映画を観ている時、正直「関西弁下手やなぁ」と思って、そこがちょっと気になって、モチーフといっても、東京でも良かったのでは?と思ったので、そんな風に事件の内容を扱ったのであれば、東京に置き換えるのは無理だったと分かりました。

感想やちょっとしたこと

邦画はほとんど観ない私ですが、この映画は先日のミッドナイト・スワンと同じく時間を気にせず観られました。やっぱり、まったりと進むので最初まだ導入部の時は「眠い・・・」となりましたけど、142分という長い映画でしたが、最後まで飽きずに観ることができました。事件に使われた声が自分の声だと知った人の苦悩と、同じ状況の子供たちの悲劇の人生というなんとも苦しくなる内容でしたが、もしかしたら、こんな風に本当に地獄のような人生を歩んだ子がいたとしたら、いたたまれない気持ちです。

小さな子供が犯罪を犯す(実際には「使われた」だけですが)という認識がまったくなかった時代、声紋鑑定をする専門機関も子供の声のサンプルがなかったので、色々な子供の声を採集して分析に使ったのだそうです。

よくテレビで見ていた日本音響研究所の松井所長の息子さんで、現所長の鈴木創氏がインタビューの中で当時「声」に使われいた少女に限りなく近づいていた可能性を語られています。しかし、女性であっても子供は声変わりをするので、時間が経っていたために本当にその子かどうかは確定できなかったそうです。犯人が「子供なら特定されにくい」というのを考えていたかどうかわかりませんが、犯罪は大人という認識を覆す頭の良いやり方だったのかもしれないですね。

原作もぜひ読んでみたくなりました。 

罪の声 (講談社文庫)

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  • 作者:塩田武士
  • 発売日: 2019/05/15
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