こまりんさんシリーズ最新作です。
とはいえ、今回はこまりんさんの事務所のスタッフの方(大学の後輩)が、大学時代に遭ったちょっとだけ怖い出来事です。
マネキンの時は「こまりんさんと一緒に仕事をするうちに見えるようになった」ことにしてありましたが、ご本人が「別に公開していいですよ」とお許しをくださったので、解禁となりました。
今回は、そのスタッフさんが大学時代に起こったプチ怖な出来事です。
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私の出身大学は、都心にある理系の大学なのですが、授業料が比較的安価なためか、60年以上の歴史ある建物の立て替えや修繕はあまり行われておらず、古い校舎は明るい時間帯でも薄暗さがあります。
大講堂は机と椅子が一体になっているため、使用した時にきしんで出る音が風情があるといえばあるという状態です。
その大講堂は、同じ学科の生徒がすべて収容できるくらいの大きさなのですが、そこには「指定席」と呼ばれる席がありました。
一番後ろから数えて三列目、その一番隅っこの席が「指定席」です。
窓が高い位置にあるため、昼間でも少し暗く感じる席でした。
通常、誰の席はどこ・・・などと決まっているわけではないので、皆それぞれが座りたい席に座るのですが、その「指定席」だけは、誰も座ることはありません。
指定席に座る、その人だけが座ることを許されている席でした。
実をいうと、その指定席のいわれが何かなどは、まったく分からないのですが、私が現役の学生の頃も、同じ大学の後輩だった現オフィススタッフの2名が現役の頃にも、この「指定席」のことは、人から聞いて知ることになったのですが、だからといって、授業の時にそこに人が座っているのを見たことはありませんでした。
ここは指定席だからと、誰も座らないというだけでした。
しかし、ある日の出来事で、この席が誰の席なのか分かりました。
それは、私の事務所の現スタッフが、ある日研究室で遅くまで実験をしていた時のことです。
鞄に入れていたはずのノートパソコンがないということに気づきました。
「やべっ」
時間は既に23時を過ぎていました。
仲間に「明日探せば?」とのんびり言われても、学生の身分で高いお金を出して買ったものでしたし、必死に記憶をたどっていくと、昼間、大講堂に持って行き、試験問題が配られたのでメモと一緒に脇に置いたところまで思い出しました。
彼は、さすがにこの老朽化した校内をひとりで歩いて大講堂に行くのは怖かったので、仲間に頼んで一緒に行ってもらいました。
記憶をたどってから、行動に移すまでに時間がかかり、大講堂に着いた時には午前0時を回っていました。
「・・・あれ?誰か中にいるんじゃない?」
同行してくれた仲間が明かりのついた大講堂の中を曇りガラス越しに覗いて、そう言いました。
彼も見てみましたが、確かに部屋にはぼんやりとした明かりが点いて、中に人影が見えました。
「こんな時間に誰だよ・・・警備員が鍵をかけ忘れたのかな」
ガチャガチャガチャ・・・。
ドアを開けようとしましたが、しっかりと施錠されていました。
「なんだよ、開かないじゃん、中から鍵を締めたのかな」
ドンドンドン!
明かりも点いているし、その時点では中の人にドアを開けてもらうことだけを考えていました。
「すみませーん、忘れ物取りに来たんですけど、鍵かかってるから開けてもらえますか?」
ドンドンドンドン!
夜中に不謹慎と言われそうなくらい大きな音を立ててドアを叩いても、まったく反応がありません。
「おかしいなぁ・・・」
明かりは点いているし、人影は確かに見えています。
「・・・・・・・・・・・」
じっと見ていると、その「影」の動き方がおかしいことに気づきました。
「おい、警備室に行った方が良くないか?」
「そうだな」
お互いに言葉には出さなくても、なんとなく嫌な感じがしたのは顔を見ればわかりました。
警備室に着くと、見慣れた顔の警備員が暇そうに座っていました。
「すみませーん。大講堂に忘れ物しちゃって、貴重品なんで取りたいんですけど」
「遅くまで大変だねぇ、これ鍵ね」
警備員は快く鍵を貸してくれました。
しかし、なんとなくふたりで戻ることに抵抗があったので、
「ありがとうございます。なんか、中に人がいるみたいなんですけどね、影が動いでいるだけで、ドアを叩いても気づいてくれないんですよ」
そういってみると、警備員は怪訝な顔をして鍵を渡そうとしていた手を引っ込めて、「じゃあ、一緒に行きますよ」と言って、着いてきてくれることになりました。
挨拶した時に快活な感じだった警備員は、前を歩きながらひとこともしゃべりません。
暗い廊下を歩きながら、なんだかどんよりとした空気が流れているように感じて、背中の方が冷たくなったように感じました。
実をいえば、ふたりが見た人影・・・・その動きは、歩いているというより、床の上を滑っているといった方がいい感じで、まるでレールの上をすーーーーっと滑るように動いていたのです。
生きた人間が歩いていたのであれば、あんな風になるはずはありません。
その時は話すこともなく頭の中で考えていたふたりですが、同時に「ここは理系の大学。何か実験をしている可能性だってあるし」と考えてもいたのです。
3人が大講堂の前に着くと、少し前まで着いていた電気は消えており、シンと静まり返っていました。
電気をつけてもらいドアを開けて目を凝らしても、人影もないようです。
ふたりは急いで席に行くとパソコンとメモ帳を見つけて、「良かったぁ~」と笑いながらドアの方まで戻ってきました。
「振り返らないで、急いできなさい!」
もう少しで着く・・・という時に、ドアの向こうで待っていた警備員が叫びました。
「えっ?」
そんなことを言われたら、反射的に振り返ってしまいますよね。
その時もふたりは、迷うことなく同時に振り返りました。
「あっ!」
例の指定席に長い髪の女性が座り、後ろを向いてふたりを見ていました。
「うわぁ~!!」
叫びながらドアを出ると、警備員はすぐにドアに鍵を掛けました。
あまりのことに無言で廊下を歩いていると、「学校だからねぇ・・・色々あるんだよ」警備員がぽつりと言いました。
これからのち、彼らは色々とそんな体験をすることになるのですが、この日の出来事が初めて「見えた」体験だったそうです。