皆様、こんにちは。
かなり久しぶりの「こまりんさんの怖い話」の登場です。
冬の寒い夜、部屋で温まりながらぜひお楽しみください。
なお、実話により、そのままでは個人を特定されるような箇所もあるため、設定自体はフェイクを混ぜてあります。
ただし、起きた現象などは一切嘘はありません。
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私の家は、神奈川のある地域の新興住宅街にあります。
新興といっても、できたのは私の幼い頃なので、出来てからかなりの年月が経っていますから、入居当時から住んでいる方は亡くなった方もいれば、残っている方も70代以上の高齢の方ばかりです。
その子供さんたちは既に独立して町を離れている方が多いので、私の周りの家々は、高齢者住宅の様相を呈しています。
ある日の夕方。
用事で出かけて帰ってくると、近所に住む鈴木さん(仮名)のお家の長男のお嫁さんが声をかけてきました。
「こまりんさん、お出かけしてたの?」
「はい、今日はちょっと用事があって・・・」
そう挨拶をして通り過ぎようとしたら、その方が「ちょっと待って」と私を引き留めました。
なんだろうと立ち止まったら、自分の家のことを話し出したのです。
「こまりんさんの家って、1階も光がよく入っていいわよねぇ・・・。なんか玄関のところに入ったことしかないけど、そもそも空気が違うもんね」
「はぁ・・・」
「うちなんて、1階は主人も怖がっていかないくらい、日が全然入らない暗い部屋しかないのよ」
「はあ・・・」
鈴木さんの家は、2階建てのいわゆる二世帯住宅で、ご主人の両親が1階に住み、自分たちは2階に住んでいました。
もう義理の両親はなくなり、片付けもしていないので、相変わらず2階だけで生活しているのだそうです。
怖がってってなんだろう?
いくら暗いといっても、自分の家なのに近寄ることもしないとか、ちょっと変じゃない?
なんてことを思っていたら、「それにね」鈴木さんはなおも続けます。
「夜になると1階から足音が聞こえてくるの。ねずみだって思うようにしてるんだけど、なんか杖をついて歩くような音が聞こえてきて、私も怖くてとても見に行けないのよ」
「足音がするんですか?でも、この地域ってねずみがたくさんいるから、そうだったら駆除しないと」
近所の古い空き家が取り壊されるたびにネズミが増えて、天井裏や壁をかさかさする音が夕方以降、翌朝にかけて聞こえるようになりました。うちはネズミとか害虫駆除の超音波を家中に設置しているので音はしなくなりましたが、設置前はすごかったです。近くの大きい団地も築60年以上経ち、そこも取り壊しているので、そこからも色々と害虫が出ているとの話でした。
でも、ねずみだとして「杖をついて歩くような音」に聞こえるでしょうか。
「先週もね、やっぱり夜になって音が酷いから主人に見に行ってもらったのよ。そしたら、いきなり叫び声がして慌てて下りて行ったら、主人が倒れてたのよ。足が痛い痛いっていうもんだから救急車を呼んだんだけど、骨折してたから入院になってしまって・・・」
聞けば、まだ当分入院しなくてはいけないそうで、奥さんは怖くて1人では住めないからビジネスホテルに泊まっているとのことでした。
「自分の家なのにそんなに怖いものですか」
私が疑問を口にすると「だって、家っていっても主人の実家で私の家じゃないもの。結婚して50年近く経つけど、いまだに他人の家って感じがするのよね」というのです。
嫁いだ先の夫の実家って、そんな感覚なんでしょうかね。
「今日は、主人の着替えとか自分の着替えを取りに来たんだけど・・・」
「もし良かったら、1階のお部屋を見せてもらえますか?」
「えっ!本当に?!助かるわぁ~、怖くて1人で入りたくなかったのよ」
鈴木さんは大喜びで私の手を取りました。
いったい、こんなに怖がる家ってどうなっているんでしょうか。
私もちょっと興味が沸いたというのが本音でした。
鈴木さんの家は、結構大きな2世帯住宅で、2世帯といっても玄関は1階に1つしかないんです。
その玄関を入って正面にある階段を上がれば、2階はすべてご夫婦の生活エリア、1階が義両親の生活エリアです。
「お邪魔します」
誰もいない家ですが、そう声を掛けて上がりました。
「こまりんさん、好きに見てって。私は荷物を取ってくるわね」
そういうと、奥さんは足早に階段を上っていきました。
「よっぽど嫌なんだろうな」
そう思いつつ、奥まで進んでいきました。
奥の部屋から順に見て行こうと思ったわけです。
鈴木さんの義両親は、義父がサラリーマン、義母がお茶の先生を和室でされていたのを覚えています。
義父さんは読書好きだったのか書斎には本がびっしりと本棚に納められていました。
1階は、6帖間が5部屋+トイレ・お風呂・台所+食堂という広さです。
「あれ」
義父さんの書斎に入ると義父さんがそのままいました。
和室には、義母さんが正座をして座っていました。
二人とも、「あら、おじいちゃん、こんにちは~」「おばあちゃん、お久しぶりです」とあいさつしたくなるほどくっきりはっきり視えました。
『おじいちゃんは確か、20数年前に亡くなっているはずだし、おばあちゃんも数年前に施設で亡くなったはず』
鈴木家とは、そこまで親しいつきあいではありませんでしたが、訃報は町内会の回覧板で回ってくるので知っていました。
かなり前に亡くなったにも関わらず、こんなにくっきりわかるなんて、成仏していない証拠です。
いったいなぜ、おじいちゃんもおばあちゃんも空に上がって行かれないのでしょうか。
このご夫婦とは子供の頃に町内会の行事などで何度もお会いしたことはあるので、私が視ても「あら、久しぶり、元気?」とおふたりともまったく怖い感じはなく、こちらが拍子抜けしてしまいました。
だとしたら、鈴木夫妻の「怖い」という感情は、どこから来るのでしょうか。
そう思いながら、別の部屋に入ったところ、そこは布団や衣装ケースが積んであって倉庫のような和室でした。
その部屋の空気は、ものすごく冷たくて、思わず身震いするくらいの恐怖も感じました。
「いったいなんだろう」
ただ、さすがに家の人に無断で家具や衣装ケースを開けるわけにはいかないので、奥さんを呼んで一緒に入ってもらうことにしました。
2階から下りて来た奥さんは、恐る恐る部屋にやってきました。
「ここの部屋、押し入れが2つあるんですけど、開けてもいいですか?」
聞くと「なんでも見てくれて構わないけど、この部屋、私1回も入ったことない部屋なの」
「ええ?!1回も入ったことないんですか?」
そんなことあるんかって思ったので聞いたのですが、確かに2世帯住宅にしたのだから、どの部屋でも自由にというのはマナー違反だし、嫁という立場で義両親が住んでいる部屋に勝手に部屋に入ることはなかったのでしょうね。
とりあえず許可を得たので、部屋の奥にある押し入れの戸を開けました。
「・・・・?!なにこれ」
思わずそう叫んだのですが、中には木の黒い箱が2つ・・・・。良く見ると小さな仏壇でした。
中には位牌が入っていたのですが、20位牌以上はありました。
位牌といっても、すべて白木にマジックで本名が書かれた程度のもので、裏には亡くなった日付と思われる年月日が西暦で書いてありました。
仏壇を取り出した奥には、四角い白い箱が押し入れの天井まで届くほどにいくつも積まれていたのです。
はい、中身は骨壺でした。
重さからして、ご遺骨も入っているようでした。
また、その奥には白黒の遺影とおぼしき写真がずらりと並び、もう怖くて怖くてさすがの私も涙が出そうになったほどです。
いったい何代前までのものでしょうか。
「こんなに何代前の人たちまで成仏してないから、義理のご両親も成仏してないんでしょうね」
そういうと鈴木さんはびっくりして「えっ?お義父さんとお義母さんは成仏してないの?」
「ええ、さっきあちらの部屋で会いました。そんなことより、なんで遺骨がそのままここにあるんでしょう。ご主人の家族や親せきのお墓ってないですか?」
位牌と骨壺の入ったおびただしい数の箱を見て、呆然としているお嫁さんに尋ねました。
「主人からも義両親からもお墓のことって聞いたことないわ」
「でも、おじいちゃんが亡くなった時は、ご葬儀は結構大がかりにしてましたよね?49日に納骨しなかったんですか?普通ならその時本位牌になるはずだけど・・・」
「49日ってなに?それに位牌ってこれのことじゃないの?」
「・・・・・・・・・」
49日を知らない人がいるなんて考えたこともなかったので、すぐに声を出すことができませんでした。
よくよく聞くと、お葬式の時は僧侶は呼ばず、読経の声を流して、葬儀屋の人が僧侶の格好をして葬儀をしたんだそうです。
お嫁さんは葬儀には関わっておらず、後からお姑さんがそう話していたのだとか。
そんなこと葬儀屋がしてくれるんでしょうか。
だから、その後骨をどうしたかなど、まったく把握していなかったそうです。
普通なら信じられない話ですが、信じられないことを数々経験した私なので、もうそうだったとしてスルーすることにしました。
「とにかく、このままではこの家は怖いままだし、皆さん成仏していないので、早急にお墓をなんとかした方がいいです」
最後お墓が決まるまでの間、毎日換気と仏壇の掃除をしてお水とお線香をあげることと伝え、そうすれば怖いというのは徐々に薄れてくると話してから帰りました。
聞けば、宗派はうちと同じだったので、うちの菩提寺を紹介することになりました。
後日、連絡をいただき、紹介したお寺の広い敷地の区画を購入することになったとのことでした。
ご主人に私が訪ねた日の話をしたそうですが、足を怪我した日は、何かにがっしりと足を掴まれたことで転倒したと言っていたそうで、もしかしたら先祖が怒っていたのかなと話したそうです。
しかし、49日を知らないとか読経を葬儀屋がするとかそんなことあるの?バレないの?と思いましたが、真相を知る機会はないので、そういう人もいるんだなぁ~と思うことにしました。
でも、亡くなったご先祖とか誰か知らないけど、遺骨を押し入れに保管したままにするなんて信じられないような話ですよ。
ちゃんとご供養しているならまだしも、暗い狭いところに入れっぱなしだったわけですしね。
無宗教っていっても、死者への敬意は持つべきだと思いますけど・・・。
若い人ならいざ知らず、嫁いできたといっても、70近い人ですよ・・・。
これがいまだに「本当なのか?」と疑問に思っていることです。
別日に私の父の7回忌のことでご住職に電話をした時、「新しい檀家さんをご紹介いただいてありがとうございました」とお礼を言われました。
「皆さん、まだ亡くなったことを自覚されていないので、心を込めてご供養するしかないですね。成仏されるには時間がかかるかもしれません」
とのことでした。
お嫁さんには言わなかったのですが、遺骨があった部屋に入った時、もうなんというか全部が暗い、まるで黒い布を照明器具にかけたような変な黒さで、黒いモヤモヤしたものが部屋に渦巻いている感じでした。
供養をされない、水ももらえない、苦しい・・・という感情が溢れてきて、受け止めきれませんでした。
日本人形が6体あって、全てガラスケースに入っていました。
その中・・底面のガラスが髪の毛だらけになっていた・・・人形の足が見えないくらい、
すごい量が伸びている・・・・10cm伸びるとかのテレビ番組とかYouTubeが可愛く見えるくらいに長く伸びていたんです。
最初からそんな長さのわけないですから、6体全てに憑いていて、髪が伸びているんだと思います。
たぶん・・・ご遺骨だけでも怖いのに、さらに人形まで・・・。
その人形たちもご住職の紹介で人形を供養してくれる寺に持っていったそうです。
ひょんなことから、私自身も怖い目に遭いましたけど、人助けをしたと思って、終わり良ければ・・・と思うようにします。