あじゃみんのブログ

美味しいものや、経営する雑貨店のこと、女性の心身の健康について、その他時事ネタなど好き勝手に書いているブログです。

孤独と闇 終章 発見

5月の警察署での一件の後、結局7月の上旬頃にDNA鑑定キットを使って採取したものを持って、再び警察署に出向きました。
父の具合も一進一退で、すぐ下の弟、叔父も派手に転んで怪我をして動けないというので、結局この日も私1人でした。

キットを提出した後で、叔父の遺体が発見された家に、あの担当の田中刑事と若手刑事2名と一緒に行くことになっていました。

 

遺体が見つかった家など見たくはなかったのですが、叔父には身寄りがいないとのことで、その自宅をどうするかなどもあり、様子を見なくてはいけなかったこともあります。私は叔父に会ったこともないですし、当たり前ですが叔父の家にも行ったことがありません。

その家は叔父の持ち家だったそうですが、私の祖父が再婚した後で数年でなくなり、その生命保険で建てたものだったそうです。
だから、その家は父の生家でもないため、調べれば控えがあるとは言っていましたが、父も○県のここらへん程度の認識しかなかったようです。
父のすぐ下の弟もその家には行ったことがないとのことでした。

亡くなった叔父は生涯独身で、実母の死後、ずっと1人暮らしだったようです。
遺体が発見されてから、警察の調べでわかりました。

「うわっ」

叔父の家に到着すると、敷地が広いのはわかるのですが、家自体は平屋だったのでボウボウに伸びた雑草に覆われて、辛うじて屋根部分が見える程度でした。
敷地は130坪ある・・・と田中刑事は教えてくれました。

敷地には木造平屋住宅が2軒建っており、そのうちの手前側の住居部で遺体が発見されたとのことでした。

門・・・だったと思われるところから入っていくと、「危ないから気をつけてください。そこらへんに何個も井戸があって、ふたも腐ってますから、落ちますよ」と田中刑事が後ろから声を掛けました。

『だったら自分が先に行ってくれればいいのに』

心の中で毒づきつつ、「わかりました」と返事をして、慎重に進んでいきました。

叔父を一番最初に見つけたのは、購読していた新聞の配達営業所でした。
配達に来ても新聞が玄関先にたまり、集金も出来なくなっていたことから、営業所の人が通報したとのことでした。

ただ、最後に叔父が玄関に出てきたのが7ヶ月前で、その時も「全身が痛い」と言って這って出てきたこと、痩せ方が尋常ではなかったことなどを話していたそうです。
そんな状態の叔父を目撃したのであれば、7ヶ月も放っておくのではなく、もっと早く通報してくれたら良かったのにとも思いますが、なぜそこまで長い時間なにも言わなかったかについては、特に話はなかったそうです。


叔父の家に入ると、そこはもう動画でよく見る「廃墟」でした。
ほとんどの床が抜けていて、地面が見えている状態でしたし、残っている床もミシミシと音がして歩くのも恐る恐るになりました。
叔父の寝室だったという和室に入ると、布団はまだそこにありました。

ただ、叔父の遺体は布団の上ではなく、そこから3mくらい離れた壁際だったそうです。
遺体があったというその場所は、既に畳ごと抜け落ちて、初夏の気温と共に特有の臭いがしました。

「ココ、ここ見て」

同行していた田中刑事が急に声を掛けてきました。
彼が指したところは、壁の下の床から少し上あたりでした。

「あっ・・・・」

思わず声が漏れたのは、その床から少し上の壁には、どこかで見たような黒い手形がうっすらと残っていたのです。

「多分さ、仏さん相当苦しんだんじゃないかと思うんだよね。鑑識の話だと、壁に剥がれた爪がついていたって。肉片もついていたって聞いてる」

田中刑事の声を聞きながら、私は実家や兄の家に現れた、あの黒い汚れを思い出していました。
目の前にあるそのシミのようなものは、まったく同じ形をしていました。

部屋の中には、ハエも数匹飛んでいて、気持ち悪かったです。

警察は台所も調べたそうですが、米1粒ない状態で、電気・ガス・水道は止まっていました。
冷蔵庫の中も空っぽ。
戸棚もありますが、食器は2つしかなかったそうです。

家具などもほとんどなく、まるで空き家のようでした。

「さっき見た黒いのは体液だけど、苦しくて苦しくて、指先で壁をこすったり、叩いたりしていたんだろうって。体が弱って起きられなくなって、声も出せなくなって、それでも苦しくて じっとしていられない。心臓が止まるまで、身の置き場がないくらいの壮絶な苦しみだったみたいだね」

「叔父は、病死だったんですか?」

「解剖するのに採取したのは、骨6箇所、肉片3つだったんだけど、全てから癌細胞が見つかったそうですよ。鑑定結果は末期癌による自然死。可愛そうな話だと思うだろうけど、いい大人が自己責任というか、仕方ない面もあるよ。ここの仏さん、健康保険料もまったく払っておらず、保険証持っていなかったんだよね。しかも年金保険料も納めていないから無年金だった。でも、この広い土地と自宅は手放さないと言い張っていたらしく、生活保護も受けられなかった。病院の通院記録もまったく見つからなかったから、仏さんは自分が病気だったことすら分からなかったんだろうね」

「ええぇ・・・そんなこと」

あまりのことに絶句してしまいました。

「まぁ、だから、あなたがた親族が気に病む必要はないですよ。正式に戸籍が死亡処理されると、今まで色々なものを滞納してるから、そちらに請求とか取立てが行くと思うから。お父さんとよく相談して、相続するかしないかを決めた方がいいね。ここに踏み込んだ時に、請求書の封筒で玄関がすごいことになってたんですよ」

「・・・そうなんですね。わかりました。父とよく話してみます」

「それがいい」

田中刑事はうなずくと、また違う部屋に私を案内しました。

別にこれ以上見たいということもなかったのですが、頼りにしていた母親が亡くなって70歳を過ぎるまで、いったいどうして暮らしたらこんな死に方をしなければいけなくなるのでしょうか。

 

「調べたら、トイレ、ふろ場、洗面流しとか、全て血液反応が出てたんですよ。だから、もしかしたら殺人事件かってことになって、うちら捜査1課が狩り出されたってわけ」

 

「ああ、そうなんですね。変だなぁ~って思ってました」

「そうですか。実はここの家のお母さんて、行方不明なんですよ。家宅捜索したかったけど、証拠が出て来なくて、とうとう調べられなかったなぁ」

田中刑事は、窓から庭を見つめながらボソッと言いました。

「あのぉ、叔父の母親って、お墓に名前がありますよ。亡くなったと思ってましたけど」

「ああ、半年以上行方不明の場合は、そこから公示されて、それでも一定期間で見つからなかったら、死亡手続きを取ることが出来るんですよ」

「へぇ・・・そうなんですか」

まったく付き合いのなかった私たちですが、なぜか亡くなった叔父の建てた墓は、私の父が建てた墓の隣にあるのです。
その他の親戚の建てた墓と3つ並んで建っていて、そこに叔父の母親の名前があったので、父から誰のお墓だかは聞いてはいたのです。

まさか、あの墓に骨は入っていないとは。


そんな話をしながら、家の中を見て回っていたのですが、この家に入った時から、私と田中刑事、そして若手2人は、一緒に行動していました。
それなのに、私たちがいない部屋から「バキッ!!」とか「ビジッ!」という大きなラップ音が何度も聞こえてきました。


孤独死っていっても、もう見つかっているのに、まだ何かあるのかな』


霊のことならなんでもござれな私ですが、怖くないわけではないので、大きなラップ音を聞きながら、嫌ぁ~な気分になっていたのでした。

次に入ったのは、話題(?)の叔父の母親の部屋だったと思われるところです。
花柄のカーテンが、既に朽ちているようでした。

畳もボロボロで、なんとも暗い雰囲気でした。

「・・・・ん、なにこの空気?」

思わず口に出すと、田中刑事が「どうしました?」と聞いてきました。


「いえ、閉め切ってるのに冷たい空気がどこかから入ってきてませんか?」


「・・・・・・・・・・・・・・」


「あっ!本当だ」


声を上げたのは若い刑事の1人でした。

「下だよ、この下から来るんだ」

若い2人の刑事は、ボロボロの畳をはがすと「うわぁ~、こんなところにも井戸が!」

と大きな声で叫びました。

この家の周りには、何個も井戸がある・・・家に入る時に田中刑事は言っていましたが、まさか部屋の中というか床下にまであるとは。


「どうなってるんだ」

4人で残りの畳もどかして、床下に下り、井戸の蓋をどかして中を覗くと、3mくらい下にある底に、白骨がボロボロの服を着て横たわっていました。
暗かったので、最初は服が捨ててあるのかと思ったのですが、細い骨がちゃんと服を着ているのが見えました。


「あーあ、これは自然死じゃないですよねぇ・・・。やっぱり捜査1課の出番だったんですねぇ」

私がつぶやくと、「蓬莱さん、よく空気の流れに気づきましたね。うちに来て欲しい人材ですよ」と言われました。


「お断りします」


きっぱりと答えました。

その後の話になりますが、見つかった白骨はDNA鑑定ができる状態ではなく、孤独死した叔父の母親かどうかは、結局分かりませんでした。
ただ、骨にあった傷から、他殺であったことは認められたとのことです。
時間が経過しすぎていて立件も難しく、容疑者と思われる息子も孤独死してしまっているので、事件化はされずに終わりました。

木のようにしか見えなかった叔父は荼毘に付され、白骨化したその母と思われる骨と一緒に本人が建てたお墓に埋葬されました。

納骨が済んでようやく、夜のうなり声やあの黒い汚れは出なくなっていきました。


結局、借金だらけの叔父の財産は、土地も家も相続については放棄しました。
あんなものもらっても、処分するのも大変ですしね。
父も父のすぐ下の弟も「相続放棄」で良いというので、私が手続きをしました。

あの家や土地は、しばらくしたら国庫に入ります。


今回は、自分の家族のこととはいえ、ヘビーな体験をしたなぁ~と思います。
今年、父が他界しましたが、生きているうちに叔父のことが判明して良かったとも思っています。


【以下、あじゃみんより】

いやぁ~、これはまたすごい話でしたね。
こまりんさんの幽霊話はいつもある意味楽しいことも多いのですが、お父様の病院での出来事とか、今回の親戚の話とか、久しぶりにヘビーでした。
リライトしていても、なんか気持ちが重くなったりして。

さて、今回のお話は、いったいなぜ、叔父さんがそんな孤独死をしなければならなかったのかなど、もっとヘビーな部分があるのですが、いくらこまりんさんを知らない人が読むといっても、プライバシーを考えるとその点はとても載せらないと判断しました。

ちょっとそれってどうなの?みたいなところがあるかも知れませんが、その部分を端折っているためだということをご理解ください。

全部読んだ私は、どよよ~んとしてしまいましたよ・・・。