第一章は、こちら
文中の名前は、すべて仮名です。
この話は、警察から連絡がある半年ほど前にさかのぼります。
年末が近かったので、実家を掃除するために障子紙や洗剤など大掃除の道具を買って準備していました。
この頃になると父の具合がかなり悪くなり、入退院を繰り返していたので、私自身も実家に頻繁に戻っていました。
母も病気でしたので、両親が家の掃除は無理なため、私が掃除要員でした。
さて、少しずつでも掃除をするかな・・・と家の中の片付けを始めたのですが、その時に「なんだこれ・・・」と気になった汚れは、母が「変な汚れがついてるから、先にそこを見て」と言っていた仏間のある汚れでした。
その汚れは、黒く、まるで手形がついたような跡でした。
それが、ふすまや障子にベタベタと無数についているのです。
しかも、不思議なことにその跡は床から数センチ以内の高さまでで、その上にはついていないのです。
父や母が触った跡だったとしても、2人とも這っているわけでもないのに、こんな低いところに手形が残るかな・・・。
100歩譲って両親の触った跡だったとしても、年寄りの2人暮らしで、そんな広範囲にベタベタと手形がつくとも思えませんでした。
しかたがないので、ふすまは上から厚みのある紙を貼り、障子は紙を貼り替えました。
しかし、その黒い手形のようなシミは、年末が近づくにつれて貼り付けた紙の内側から、またじわっとにじみ出てきたのです。
もちろん、押入れに液体などは入っていません。
「いったい、なんだろう」
なんとも言えない嫌な感じがしていましたが、その嫌な感じはどんどん広がっていきました。そう、時が経つにつれ、仏間以外の部屋にも現れ出したのです。
そこは、すでに両親は上がれなくなった2階の部屋でした。
仏間にあったのと、同じ大きさでやはり床から数センチの壁際についていました。
その後、その汚れは廊下にも現れ、廊下の汚れは他とは違って這いずった時についたような形の、黒い油のようなネトッとした汚れでした。
幸い(?)にも、その汚れはフローリングなどの床材であれば洗剤を使えば落とすことができました。ただ、落としても落としても数日すると出てきてしまうので、私は朝起きるてその汚れに気づくと洗剤を使って廊下を拭き掃除するのが日課となってしまいました。
「こんなに油っぽい汚れだから、カビじゃないだろうし」
家で結露がついているようなところもないので、いったい何の汚れなんだか、まったく分かりませんでした。両親と私は、ただただ「なんだろうねぇ・・・変だよねぇ、不思議~」と言って、顔を見合わせていたのでした。
そして、さらに不思議なことに、黒い手形が家全体に拡がるのと比例して、深夜になるとうなり声と床や畳を這いずるような音が聞こえだしました。
廊下に出ても何も見えず、原因が分からないので対処のしようもなく、途方に暮れてしまいました。
そんなある日、兄から私に電話がかかってきました。
「おい、駒子!なんだよこの黒いドロドロした手形!どこかで何か起こってるんじゃないのか?」
こちらが出たと思ったらいきなりそう言うのです。どうやら、兄のところにも手形が現れたようでした。
兄は、家族の中でもダントツの霊能力の持ち主です。
私も危ない目に遭った時、結構兄には助けられています。
「そんなこと言われてもわからないわよ。お兄ちゃん、何か思いつくこととか見えることないの?」
「わかんねぇ~よ」
こんな不毛な会話を繰り広げた私たちですが、あの兄さえもわからないのですから、ことはそんなに簡単ではないのかもと思い始めていました。さらには、父のすぐ下の弟である叔父の自宅でも、同様の異変が起こっていたことがわかりました。
その異変は結局、あの叔父の遺体の件で、警察から連絡があったその日まで続いたのです。
終章に続く