あじゃみんのブログ

美味しいものや、経営する雑貨店のこと、女性の心身の健康について、その他時事ネタなど好き勝手に書いているブログです。

幽霊物件

皆さま、お待たせいたしました。

こまりんさんの実体験話、最新版です。

今回も怖いというより、ちょっとほっこりなお話ですよ。
では、お楽しみください。

 

友人からの紹介で、中古住宅の建物診断に行った時のお話しです。

中古といっても、まだ築7年とのことなので、診断することもないのでは?と思ったのですが、友人によると、この住宅の購入を検討しているご夫婦が相場よりかなり安いので、大きな欠陥などがないか心配しているとのことでした。

住宅といっても、実は店舗と住宅を兼ねた建物で、購入を検討しているご夫婦は、ご主人がパティシエ、奥様が管理栄養士をされていて、今までご自身のお店を住宅地に持つというのを目標に頑張ってきて、つい最近「これは!」と思う物件に巡りあったとのことです。

不動産屋を介さないため格安でというお話しではあったものの、実際に見てみると、この状態であまりにも安い金額に、疑惑が生じてしまったそうです。

そのお宅は、東京近郊の県にあり、昔は高級住宅地だった場所にありました。

お店の出入口は道路沿いにあり、童話の世界に出てくるような構えの扉がついていました。

資料によると、1階は裏が住居入口とお店の裏口、お店部分、調理場、倉庫と冷蔵室があり、2階から上が住居になっていて、2階には10畳+6畳ほどのリビングとキッチン、3階はベッドルーム8畳+6畳の二部屋あるので、もし将来お子さんが出来ても十分な広さでした。

後で入ってみてわかったのですが、1階のお店の床は総大理石で、とても高級で上品な内装でした。

「こんな素敵な物件が○千万円だっていうんですよ。私たちはすっごく気に入って、買う気満々なんですけど、うちと主人の両親がちゃんとした人に見て貰えって言うものですから・・・」

奥様の言葉に、なるほどとうなずいて、「図面もありますし、建物と照会してみますね」と言って、資料を広げようとすると、「あの・・・。お店のことなので、縁起の方も調べていただけますか?」と奥様が言うのです。

「えっ?縁起とは?」

「いえ、あの・・・例えば座敷童みたいなのだったらいいんですけど、それ以外はちょっと・・・」

「ああ、それ系ですね。わかりました」

友人の紹介だと、だいたいがこの「そっち系」の話も織り込まれているみたいで、いつものことなので、あっさり了解して、中に入ることにしました。

このご夫婦は、事前に中を確認されているとのことなので、案内をお願いしました。

「あ、じゃ、こちらですね・・・あっ」

促されて開けようとしたお店のドアノブがすごく冷たかったんです。

『これは、何かあるわ』

一瞬のことでしたが、そう感じました。
そして、悲しいことに、そういう直感のようなものは、最近まったく外れたことがありません。

一歩中に入った途端、私の足から力が抜けていき、床に座り込んでしましました。

「・・・・・自殺したのね」

思わず口にしたその言葉が聞こえたのか、後ろから入ってきたご夫婦が「えっ、何・・・何ですか?」と話しかけてくれました。

店の奥にある厨房は、今もすべての物がピカピカのままです。
私の目には、厨房の天井付近にある配管にロープをかけて首を吊ったのが見えたのです。

警察が来て、ご遺体をどこに寝かせていたのかも見えました。

驚いて私を見ているご夫婦にそのことを説明すると、おふたりとも一気に青ざめてしまいました。

その説明が終わるか終わらないかの時、2階の天井から、ドスン!ドスン!と、重い物を落としたような大きな音がしました。

「・・・・・・・・・!!」

今、この家にいるのは私たちだけです。
上の階から、物音がする訳がないため、一瞬にして皆固まってしまいました。

「・・・この音なに???」

やっとのことで声を出したのは、ご夫婦の奥様の方でした。

「この前来た時は、オーナーは何も言ってなかったよなぁ~」

ご主人も振り絞ったような声で言いました。

「そのオーナーの方のご両親みたいです。この家にいらっしゃるの」

見えてきた画像から、それがわかりました。

「じゃぁ、自殺したって、そのお二人なんですか?」

「いえ、自殺されたのは、お父様の方です。理由は・・・上の階に行ってみましょうか」

「えっ!」

「だっ、大丈夫なんですか?」

怖がる二人をなだめながら、なんとか上の階に連れて行きました。

3階に行くと、そこは3部屋の寝室のようでした。

壁には大きな鏡が残されています。
鏡って、色々な物が写ってしまうので、本当に嫌なんですよね。

でも、そこに真実があるのもわかります。

鏡をのぞき込むと、そこには骨と皮になったやせ細った女性、年齢がわからないくらい痩せてしまった女性が写っていました。

「ひっ!い・・・今の人・・・なに?!」

動揺するご夫婦。

まぁ、普通はそうですよね。

「あの方が病気で亡くなられたオーナーのお母様じゃないのかな??きっと病気になる前は、元気で夫婦仲良くお店をやっておられた。ところが奥様が病気になってしまい、みるみる姿が変わってゆくのを傍で目の当たりにしていたご主人はその現実に耐えられず自殺してしまった。奥様はそのあとに亡くなられたみたいですね」

いわゆる幽霊と呼ばれるものを見たことがなかったご夫婦は、そのまま固まってしまったので、気まずい雰囲気をなんとかしようと2階に下りていきました。

「でもね、オーナーのご両親がここに出てきたのも、変な感じはしないんですよ。私に伝わってきたのは、『私たちの夢だったお店をどなたかお願いします』って感情です。お二人とも、このお店が大好きだったようですよ。本当は、もっと長く大好きなお店をやっていたかったのに、こんなことになってしまったから、その夢をどなたかに託したいという思いが強いんです。だから、その想いがお二人を引き寄せたんじゃないかなと思います」

「私もお二人が購入を検討したと聞いて、これは亡くなった両親が呼んでくれたんだと思いました。もうそれだけで、・・・」

ふいに背後で声がしたので、振り返ると先ほど首を吊って見えた男性によく似た方が。
現在のオーナーがいらしたのです。

オーナーは、それだけ言うと涙で言葉に詰まってしまいました。

「念願の店をオープンして、半年くらいで母の病気が分かったのですが、その時はもう手が付けられなくて・・・。それでも1年くらいは頑張っていました。でも、いよいよ病院で母に面会をしても会話もできないほどになってしまい、きっと父は先に逝って母が迷わないように待っていようとしたんだと思います。自殺なんて、絶対してはいけないことなのに・・・。父は母をとても愛していたので、やせ細っていく母を見ていて、生きるのが辛かったんだと思います。病院から帰ると、いつも泣きながら厨房に立っていましたから。本当に父も僕も毎日が辛かったです・・・」

しばらくしてオーナーは、そのように説明してくれました。

キーーーパタン!

いきなり、部屋のドアが閉まりました。
そのドアは、扉にガラスが入っていて、向こうまで見渡せるものです。

扉の向こうの廊下から、深々とお辞儀をする女性が見えました。

「母さん・・・」

オーナーにもその姿が見えたようでした。

「ずっともう一度会いたかった・・・。やっと会えました」

泣きながらつぶやくオーナーにご夫妻は、

「この店に決めました!ここなら、うまくやって行けそうです」
「そうね。私たちも頑張らないとね」

嬉しそうに言いました。

「ありがとうございます」

オーナーは、泣きながら、でも笑顔で答えました。

きっと亡くなったご両親も満足したのでしょう、なんだか空気が軽くなっていくのがわかりました。