◎移動
ガタガタと揺れる救急車で運ばれた先は、自宅最寄駅から4つめの駅近くの総合病院だった。
もっとも、それが分かったのは先の話だけど。
どうやら病院は改装中らしく、「今、工事してますから正面からお願いします」という声が聞こえた。
搬送口ではなく、正面に回って停まる前、「歩けますか?それともこのままがいいですか?」と聞かれたので、さすがにもう歩きたくないと「できればこのままがいいです」と答え、台のまま移動となった。
ガタガタと音のする台のまま薄暗い廊下を移動し、内科医の待つ部屋へ。
隊員2が詳細に状況を説明してくれる。
さすがプロ、へなへなと説明した内容をかいつまんで簡潔に説明していた。
聞いていた内科医は、見ると30代くらいの若い医師だった。
聞き終わってから、私の方を向いて、
「あじゃみんさん、痛くなったときは、何をしていましたか?」
にこにこと妙に明るく聞かれたが、何をしていたかなんてよく覚えていないし、特に変わったことなどしていた覚えはない。
「・・・・特になにも」
やっとの思いで答えたものの、先生は「???」という感じで、「いや、何かしていたでしょ?例えばテレビを観てたとか」というので、ああ、そういうことかと「たぶん、パソコンで何か見ていたと思います」と適当に答えた。
覚えてないってそんなこと。
この質問の意味が退院した今でもさっぱり分からない。
必要なんだかどうだかわからない内容でのしばしのやり取りののち、「もしかしたら、胆のうとかがおかしいかもしれないので、造影剤を入れてCTで撮影しようと思うのですが、たまにショック状態になることもあるので、同意書にサインしてもらえますか?」と同意書を渡された。
『ショック状態???』
うつろな目で読むと、かなりレアではあるものの、造影剤の注入が原因でショック状態になったり、重篤な作用がある場合があると書いてあった。
その時になる時もあるし、時間が経ってからなる場合もあるとのことで、そうはいってもそれを拒絶したところで何かわかるわけでもないし、やってもらうしかないだろうなぁ~と思って震える手でサインした。
「車いすに座ってください」
看護師にうながされ、初めての車いす体験。
キコキコというホラーな感じの音を聞きながら、ぐったりしつつCTの前に撮影すると言われたレントゲン室に到着。
レントゲン技師に促され、四角い機械に胸を当てて撮影。
「では、次はCT行きます」
再度車いすで移動し、フラフラとしながらなんとか立ち上がって撮影用の短パンに履き替えて巨大なドーナツの中へ。
今度の技師さんは、三瓶(1,2,3,4三瓶ですってあの三瓶ね)みたいな喋り方の人で、
「では、これから造影剤を注入します。液が入ったら、体中が熱くなってくると思いますが、入り終わったら治まりますので、心配しないでください」
そうゆっくりいうと、左の腕に針を刺した。
そして、しばらく経つと言った通り体中がカーッと熱くなった。
しかし、数秒でその熱さは消え、あとは「息を吸ってぇ~、止めて」という声に合わせて息を吸ったり吐いたりした。
CTというのは、なんだかすごい音がするんだと思っていたので、何の音もしないことにびっくりした。
(のちに勘違いだということが判明したが)
あっという間に撮影は終わり、なんとか着替えてまた車いすに乗り、元いた場所なのかどこかわからない部屋に連れて行かれ、簡易ベッドの上に寝て待っているように言われた。
簡易ベッドに寝かされ、朦朧としていたら、壁を隔てて隣にいた医師と看護師の声が聞こえてきた。
今時、オンラインで撮影した画像が送られてくるのか、「できました」と言いながらその画像を見ている(気配がしていた)。
すると、医師と看護師両方が「あっ!これ!」と叫んだので、びっくり。
『なっ、何があったの???』
胃が痛いだけだと思ったのに、別の可能性を示唆され、しかもそれは別に死ぬような病気でもないので、そんなに驚くことなのか?と心臓がドキドキしてきた。
「なんだよ、これ」
医師のちょっとした言葉にも心臓が高鳴る。
「やだ、名前間違ってるじゃないですか」
『・・・・ん?名前?』
その後のやり取りで、私の画像なのに全然別の人の名前が入力されていたため、どこかに電話をして修正してもらうことになったのが分かった。
重い病気だったらどうしようと思っていた私はホッとしたのだが、考えてみればレントゲンやCTの画像が別の人の物になるというのは怖い話。
まぁ、すぐにわかったことだったので、とりあえず何事もなかったということで忘れることにした。
痛いから、それどころじゃないし。
しばらくしたら内科医が私のところに来て、「あの、やっぱり胆のうがおかしいかもしれないので、外科の先生にも診てもらいますから、少しお待ちくださいね」と、相変わらず飄々とした明るい口調で言った。
「・・・・はい」
もうなんでもしてくれよという気分の私は、ひとこと返事をしただけで、また目を閉じた。
仰向けだと痛みが増すので、壁側に顔を向けて、痛みを忘れるように呼吸をすーっと吸ったり吐いたりして気を紛らわしていた。
しばらくしてスタスタとまた足音がして、横向きでちょっとうつらうつらしていた私の肩がポンポン!と叩かれ、「あじゃみんさん!外科医のMでーす」と、こちらもなんだか妙に明るい男性医師が目の前に立った。
「あのねぇ、診たところ胆のう炎だから、入院!で、手術ね」
『えっ?!マジ?!』
思わず飛び起き・・・たい気持ちはあったけど、痛さでそれも無理、ちょっと上半身を起こしただけでギブアップしてしまった。
挨拶みたいにやたら明るく、そして軽~く言われても、保険証以外何も持ってきてないし、財布にはお金がほとんどないので、いきなり入院なんて困る!
しかも、手術なんてそんな・・・。
「あの・・・一旦帰っていいですか?」
そう聞く私にドクターMは「ダメダメ。それから、食事はなーし!」とこれまた楽しそうに絶食を言い渡した。
しかし、なんで患者に入院や絶食を言い渡すのに、そんなに明るく楽しそうなんだと心の中で思いながら顔を見ていたが、全身に鈍い痛みが回っている状態では、その外科医の態度に突っ込みを入れる気力もない。
( ̄▽ ̄;) 痛いから元気ないねん。
簡易ベッドの上のおばちゃんは、まな板の上の鯉(鯉と書いてトドと読む)でもあった。