現在は、新宿区にお住まいのこまりんさんですが、実家は神奈川県のある都市です。
ご両親、特にお母様の具合が悪いため、週に何度かは実家に帰っていらっしゃるとのこと。
ご実家は、ある駅からバスに乗っていくのですが、そのバスは途中である大学病院の敷地内を通るんです。
これは、その時に起きたプチこわな出来事です。
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神奈川県にあるS駅は、東京のベッドタウンとして人口も多い都市ですが、私の実家があるのはその駅からさらにバスで20分以上という場所になり、普段は帰宅を急ぐ人でバスもかなり混み合っています。
私はその日、やっとのことで仕事を終わらせてS駅23時40分発の深夜バスに乗りました。
いつもは混み合うバスですが、さすがにその時間になると乗る人も少なく、早くに並んでいた私は、後方のドアから入って電子カードをかざしてから、運転手のすぐ後ろの席に座りました。
「ピッ!」
「ピッ!」
後から乗ってくる人たちの電子カードをかざした時の音が聞こえました。
特に振り向いてはいませんが、音の数を数えたら、5人くらいだったと思います。
そのバスは、途中である大きな大学病院の敷地に入ります。
早い時間だと、お見舞いの人などが多いのですが、深夜バスに乗ったりする時は容態の急変の知らせで病院に駆けつける人や既に喪服のような服で乗ってくる人もいます。
この病院、実は患者の飛び降り自殺がかなり多く、S市では有名です。
治療の苦しさから、錯乱して飛び降りる人がいるようで、名前のある病院なのですが、本当にこの病院大丈夫?とよく知る人は話しているようです。
また、医療ミスも多く、訴訟もかなりあるようですが、大病院と一患者では「白い巨塔」のようにはいかず、負けて借金を背負ってしまった人もいると聞いています。
バスに揺られていると、仕事の疲れもあって、うとうとしていましたが、このバスは下りる時は前のドアから降りるため、ブザーが鳴って人が横を通るため、眠ってしまうことはありません。
そんな夜遅い時間ですから、降りる人はいても途中から乗ってくる人はなく、1人、また1人と乗客は減っていきました。
問題の病院も過ぎた頃、もうすぐ自宅近くの停留所だなと思い、降りる準備をしながら、何の気なしに座席の後方に目をやりました。
「・・・・・・・・・・・・」
既に、私以外の人はほとんど降りたはずでしたが、振り向いた私の目に飛び込んできたのは、後方の2人掛けと一番後ろの5人掛けの席に人がびっしりと座った光景でした。
車内が薄暗いのですが、周りは見える程度の明るさの電気は点いています。
でも、不思議なことに、椅子に腰かけた人々の顔は、もやでもかかったような感じで、暗くてよく見えません。
誰も乗ってきた音もしなかったのに、あの人たちはどこから乗ってきたのでしょう。
後方の席の人々は、特におしゃべりもせず、ただ黙って前方を見つめていました。
しかし、やっぱり顔の表情が読み取れません。
『これは、もしかして、もしかするなぁ』
どうやら、S駅から乗ってきた「生身」の人間は、私一人のようです。
思わずぞっとして、運転手の姿の見える位置に移動すると、「早く着いて・・・」と心で祈っていました。
もう、後ろは振り返ることができませんでした。
やっと自宅近くのバス停に到着し、前方のドアから走るように降りました。
降りてから、どうしても気になって走り去るバスの後方の窓に目をやると、後ろに腰かけていた全員が後ろの窓から外を見ていたのです。
思わず、その全員と目が合ってしまいました。
全員、目に生気がなく、どんよりとした表情でしたが、私の顔をじっーーと見つめていました。
怖くても目をそらすことができず、しばらく恐怖のあまりその場を動けませんでした。
バスは、その停留所から数メートル離れた途端、車内の照明が落とされました。
まだじっと私を見つめている人々の姿もぼんやりとしか見えなくなりました。
あの運転手は、大勢の見えない人を乗せて、大丈夫だったのでしょうか・・・。
(写真はイメージです)