家族がテーマだった「赤い指」に続いて、いよいよ「新参者」の登場です。
加賀の活躍する舞台が練馬から日本橋に移り、ドラマでは実在のお店や名所、そして「日本橋」が登場しました。この日本橋界隈の橋は、その後の物語にも重要な役割を果たしていきます。
日本橋小伝馬町で一人暮らしの40代の女性が絞殺された。
ある事件の被告の情状酌量を訴えたことから、遺族からの苦情が入り、練馬署から日本橋署に異動になった加賀恭一郎。
着任したばかりの“新参者”である加賀は、自らの足で町を歩き、事件や被害者と何らかの接点を持った家族や店を訪れます。被害者の女性との少しの接点を見つければ、それをつなげていき、最後に真相にたどり着くのですが、それが10話の連作形式で描かれ、事件が起きた第1話から、最後の第10話ですべての謎が解けるという構成です。
出てくるお店や人々が魅力的で、この小説が出た時には読み終わりたくない！ってほど好きになった作品でした。
何しろ、日本橋という東京生まれの私には、実際にはあまり行ったことはないのに、なんとなく親しみを覚える地名や場所が色々と出てきますから、その楽しみもありました。
余談になりますが、ドラマでは、今は亡き原田芳雄さんが時計屋の頑固おやじを好演していました。
本当に好きな役者さんだったので、最後の舞台上の姿は衝撃的でした。
最後の最後まで役者だったんだなぁ～と感動したし、悲しくて泣きました。
さて、この新参者も全話を通して語られるテーマは「家族」です。
9話まで、それぞれに違った家族が出てきますが、その人間味ある描き方が魅力でもありました。
親子なんて、簡単そうで簡単じゃない。
夫婦も元は他人とはいえ、歴史を重ねればただの他人の集まりとは言えません。
そんな面倒くさい家族でも、実はそれぞれがそれぞれを愛し、いつくしむ大切な存在だということを気づける人、気づけない人がいる。
そんなことを考えさせられるお話でした。
ドラマと原作では、少し違ったところがあります。
その違いを探してみるのも面白いかも。
さて、最後は2011年発刊の「麒麟の翼」です。
最終章である「祈りの幕が下りる時」のひとつ前の作品、加賀恭一郎シリーズ9作目の作品です。
この話のテーマも「家族」です。
とことんまで家族を描くことで、なぜこんな悲劇が起きたのかを描き出していきます。
建築部品メーカー「カネセキ金属」製造本部長である青柳武明が腹を刺された状態で歩いてきた日本橋の欄干にもたれかかって倒れてしまいます。
そこは日本橋の麒麟像の真下で、近くにいた警官がふらふらと歩く青柳の様子を不審に思い近づいて青柳が刺されていることに気づいて救急要請しますが、病院に搬送されるが青柳は死んでしまいました。
容疑者はすぐに見つかりました。
青柳の会社の工場に勤めていたことがあり、雇止めにあった八島冬樹が現場近くで不審な行動をしいていたところを見つかり、飛び出した拍子に事故にあって意識不明の重体に陥ってしまいます。この八島が青柳の財布などを持っていたことで、犯人と断定され、事件は一気に解決かと思われました。
人々は当初、殺された青柳の家族に同情していましたが、捜査が進む中でカネセキ金属が「労災隠し」をしていたことがわかり、まさに死人に口なしと、会社は労災隠しの罪を青柳に被せようとしたことで、一転してバッシングの対象になっていきます。
相変わらず日本橋署に勤務していた加賀と警視庁の従弟の松宮が、またもコンビで捜査をすることになります。
主要な捜査陣は逆恨みをした「八島犯人説」でまとまっていましたが、加賀だけは瀕死の状態になりながらも麒麟像にたどり着こうとした青柳の行動から、別の真相があるのではないかと感じ取り、やがて過去に起きたある事件の隠された真実に気づき、今回の事件とつながっていたことを突き止めるのでした。
さて、この作品では既に亡くなっている加賀の父親の三回忌の話が出てきます。
もうそんなに経ったんだと思いますが、三回忌の法要もあまり乗り気でない恭一郎に、父の死後も交流のあった看護師の金森登紀子は「加賀さんは何も分かっていない！」と厳しい言葉を加賀に投げつけます。
いったい、何をわかっていないんでしょうね。
それは、シリーズ最終作である「祈りの幕が下りる時」で明かされることになります。
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