あじゃみんのブログ

美味しいものや、経営する雑貨店のこと、女性の心身の健康について、その他時事ネタなど好き勝手に書いているブログです。

あっけない結末と美和子の叫び

 「・・・聡子さん、どうなったの?」

 

駒子の力でフォートカニングパークにいた全員が、高井聡子に起こった出来事を知り、力尽きた駒子を抱えるようにして、美和子が聞いた。

 

「もう・・・無理。力が強すぎるのよ」

 

駒子は地面に膝をついてやっと息をしているという状態だった。

 

「あの光・・・まだ消えてないわ」

 

目の前にある光は、ゆらゆらと漂うようにその場に留まり、駒子たちをその場に釘付けにしていた。

 

  「・・・・・・・私たちを・・・どうしようっていうの?」

 

駒子が声を振り絞って言うと、その声に反応したように光が駒子たちに近づいてきた。

 

「やだ!こっちに来る!!」

 

脅えた声を出した美和子の横を誰かが横切り、見れば高井が光めがけて走っていくところだった。

 

「たっ、高井さん!ダメダメダメ!」

 

美和子は慌てて立ち上がり、駒子から手を離してしまった。

 

「イタっ!!」

 

バランスを崩して地面に倒れた駒子。

 

「あっ、ヤダ、ごめん!」

 

助け起こそうとした美和子に「いいから、高井さんを止めて!」駒子が叫んだ。

 

「・・・あっ、そうか」

 

美和子が立ち上がって高井の方を向くと、高井は既に光の目の前に立っていた。

 

「やばっ!」

 

叫んだ美和子だったが、次の瞬間、凍り付いてその場から動けなくなってしまった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

高井の目の前には、この世のものとは思えない女性の顔が暗闇に浮かんで笑っていた。

 

「・・・・だにあで?」

 

美和子は思わず声をあげたが、まともに言葉にはならなかった。

 

「よっこらせっと」

 

場違いな掛け声に振り向くと、やっとといった感じで立ち上がった駒子が最後の力を振り絞って歩いてくるところだった。

 

「こまりんさん、大丈夫?」

 

あじゃみんさん、お経の準備」

 

「へっ?」

 

「お経よ、お経!こういう時は援護がいるの!」

 

「・・・あっ、そっ、そうなんだ」

 

美和子自身は、特に信仰を持っていたわけではないのだが、仏教徒だった祖母が存命中「何かあったらこのお経を唱えなさい」と小さな美和子に教えていたため、旅行先のホテルの部屋で「何か」を感じた時は、持参した線香を焚いて、その経を上げると空気が和らぐということが多々あった。

 

駒子はそのことを知っているため、この時も美和子に援護のための読経を指示したのだった。

あまりの光景に最初は声も出なかった美和子だが、口の中でつぶやくだけでも勇気が出てきて、いつしか普通の声が出せるようになっていた。

 

「去りなさい!あなたはもう誰も連れて行かれないわ」

 

駒子が叫ぶと、その怪物は睨みつけるように駒子を見た。

 

「高井さん、今よ!逃げて!」

 

駒子の声に我に返った高井は、ハッとしてすぐに駆け出した。

 

「待て!!」

 

叫ぶ女の声は逃げようと必死に走る高井の足をすくい、高井はその場に倒れてしまった。


「すべての者を連れて行ってやる。私の受けた苦しみを味わうのだ」

 

怪物は、そういうとゆらゆらと揺れながら高井に近づき、真っ黒なベールで高井を包もうとした。

 

「やめなさい。えええいいいい!!」

 

駒子は、手に持っていた何かを怪物と化した女に投げつけると、飛んだ何かは一瞬ピカッと光り、怪物に吸い込まれて行った。

 

「ひぃぃぃーーーーーーーーーー!」

 

断末魔の叫びのような甲高い声が聞こえ、怪物の顔がみるみるうちに割れてしまった。

 

「ギャアアアアアアアーーーーー!!」

 

最後の叫びとともに、一瞬、周囲は闇に包まれた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

しんと静まり返った広場。
だが、駒子は目の前の怪物のいたところから動かない。

しばらくすると、その暗闇の中から、小さな光がボーっと浮かび上がり、駒子たちの見ている前から前方にあったゲートに向かって飛んで行った。

 

「・・・誰かいる?」

 

その光を目で追っていた美和子が読経を止めて言った。

暗闇に慣れた目にゲートの先に人のような影が見えたのだ。

小さな光は、その人にいざなわれるがごとく、ゲートに吸い寄せられ、そして消えて行った。

 

「あっ、ちょっと・・・あ・・・あれ、どうするの?」

 

美和子は、あまりにあっけなく行ってしまった光を目で追いながら、駒子に聞いた。

 

「・・・どうもできない。恨みの念が強すぎて、消し去ることは不可能だわ」

 

駒子は諦めたように言うと、その場に倒れてしまった。

 

「こまりんさん!!」

 

駆け寄る美和子は、半ば泣きながら駒子を助け起こした。

しっかりと支えられた駒子は薄れる意識の中で美和子に感謝していたが、
当の美和子は心配しているのかと思いきや、

 

「こんなところで私一人正気だったら、怖くてたまらないじゃないのーーー!」

 

というまったく自己中な叫び声を上げたのだった。

 

薄れていく意識の中で、『これだよ、まったく』駒子は親友だと思っている美和子に、ほんのちょっと怒りを覚えたのだった。